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法令改正最前線(第75回 『労働基準法上の「労働者」』)
<滝 則茂 氏>
今回は、前々回の続編として、労働基準関係法制研究会(近い将来の労基法改正を見据えた学識経験者による研究会)において検討中のテーマの一つである「労働基準法上の『労働者』」に関する議論の状況を紹介することとします。素材としては、9月4日に厚生労働省から公表された「労働基準法制研究会(第12回)資料No.1」を参照しています。
本研究会においては、昭和60年労働基準法研究会報告等を踏まえて労働者性の判断基準等について、かなり突っ込んだ議論が行われていますが、実際の立法化となると、①労働基準法第9条の労働者の定義、②家事使用人の取扱いが課題として浮上します。
1 労働基準法第9条の労働者の定義について
現行の労働基準法は、労働者について、下記のように定義しています。
支払われる者をいう。
上記の定義は法制定時から変わっていませんが、今日の課題は、個々の働く人が「労働者」に当てはまるか否かという「当てはめ」の問題となっています。そして、労働者概念が多様化している中で、法律上の定義を変えている国がほとんどないこと、現状の定義に必要な内容は適切に示されていることを考えると、「直ちに労働基準法第9条の労働者の定義の改正を行なわなければならないという認識ではない」としています。
つまり、法9条の「労働者」の定義規定については、改正事項として盛り込む必要性は低いということです。
2 家事使用人について
現行の労働基準法は、下記のような規定を設け、家事使用人については、適用を除外するとしています。上記の定義は法制定時から変わっていませんが、今日の課題は、個々の働く人が「労働者」に当てはまるか否かという「当てはめ」の問題となっています。
2 この法律は、同居の親族のみを使用する事業及び家事使用人については、適用しない。
上記規定のうち、家事使用人については、労働基準法制定当初からの状況変化や、家事使用人の働き方の変化を踏まえ、「労働基準法を適用すべき方向で具体的施策を検討すべきではないか」と問題提起しています。また、検討に当たっては、私家庭に労働基準法上の使用者としての義務、災害補償責任をどこまで負わせられるか、労働基準法上の労働者の定義を引用する関係法令の適用をどうするか、検討が必要だとしています。
実は、労働契約法においては、法制定時から家事使用人は、適用除外とされていません。たしかに、民事法たる労働契約法と労働基準法のような取締法としての性格が強い法律とでは取扱いを異にする必要性がないと断言はできません。研究会の議論の中でも、「労働基準法による国家的監督や規制が私家庭に及び、使用者としての責任を負わせることに懸念と疑問を感じる」といった意見も出たようです。
しかし、家事使用人の働き方は、かつての住込みが一般的な状況から通勤主体へと変化しており、家事使用人は「家庭の一員」であるといったイメージは、弱まってきています。また、近年は、権利意識の高い家事使用人も増えてきていると思われることも考慮に入れるならば、家事使用人を特別扱いする必要性はほとんどないのではないでしょうか。
家事使用人については、将来の労基法改正で、適用除外の対象からはずれる公算が高いものと思われます。