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法令改正最前線(第74回 『被用者保険適用拡大の今後の方向性』)

<滝 則茂 氏>

今回は、7月3日に厚生労働省から公表された「働き方の多様性を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会(以下、本稿では「懇談会」とします。)議論の取りまとめ」を資料として、被用者保険(健康保険・厚生年金保険)の適用拡大の今後の方向性について述べることとします。

1 「懇談会」の意義
この「懇談会」は、被用者保険における課題や対応につき、社会保障審議会の医療保険部会や年金部会での検討に資するよう関連分野の有識者や労働者・使用者団体等による論点整理等を行うためのものです。2024年2月以降8回にわたって開催され、①短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲の在り方、②個人事業所に係る被用者保険の適用範囲の在り方、③多様な働き方(複数事業所で勤務する者、フリーランス、ギグワーカーなど)を踏まえた被用者保険の在り方を主な議題として、議論を進めてきました。

本稿では、上記の3つの議題のうち、①と②について、「懇談会」での検討内容の骨子を紹介します。

2 短時間労働者に対する被用者保険の適用範囲の在り方
・労働時間要件
週所定労働時間20時間以上という要件の引下げについて、雇用保険の適用範囲の拡大(2028年10月から週所定労働時間「10時間以上」に変更)を踏まえて検討すべきだとの見方も出てきています。しかし、保険料や事務負担の増加に大きな影響を与えることなどを考えると、慎重に検討を行う必要があるとしています。

・賃金要件
更なる適用拡大を進めるべく、月額8.8万円(年収換算約106万円)以上という要件を引き下げるべきだとする意見もありましたが、労働時間要件と同様、保険料・事務負担の増加といった問題があるのに加え、いわゆる年収の壁による就業調整などの問題もからんでくるので、このような点も踏まえた検討が必要であるとされています。

・学生除外要件
本要件については、特にこれといった弊害はなく、現状維持が望ましいとの意見が多くなっています。

・企業規模要件
本要件は、そもそも「当分の間」の経過措置として規定されているものであり、撤廃の方向で検討を進めるべきであるとしています。併せて、撤廃により影響を受けるのが、従業員数50人以下の小規模企業の事業所であることから、事務負担や経営への影響等に留意し、必要な配慮措置や支援策について検討を行う必要があるとしています。

3 個人事業所に係る被用者保険の適用範囲の在り方
まず、常時5人以上を使用する個人事業所における非適用業種の取扱いが問題になります。これに関しては、特定の業種を非適用とする合理的な理由は見出せないと考えられますので、5人以上規模の個人事業所においては、非適用業種を解消する方向で検討する必要があるとの見方が大勢を占めました。併せて、解消の対象となる事業所の大半は小規模事業所と考えられますので、事務負担や経営への影響を考えると、きめ細かな支援策が必要であるとの認識が共有されました。

つぎに、従業員数5人未満の個人事業所への適用拡大ですが、これに関しては一部に積極的な意見があったものの、対象となる適用事業所の把握が難しいと想定されること、国民健康保険制度への影響が大きいと考えられることなどから、慎重な検討が必要であるとの意見もあり、順序としては、5人以上規模の個人事業所の非適用業種の解消を優先して進めるべきであるとしています。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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