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業種特化社労士の視点から(第46回 『産婦人科業編』)
<三好 夕貴 氏>
私が経営するノルン社会保険労務士事務所は、「日本で唯一の、現職産婦人科クリニック事務長が経営する、産婦人科クリニックに特化した社会保険労務士事務所」として2019年より事業を運営しております。プロフィールにもあるように副業での開業という特殊なスタイルではございますが、おかげさまで数ある社労士事務所の中で弊所を選んでくださるお客様に恵まれて、4年間続けることができております。
●1.業種特化を目指したきっかけ
私は2005年から20年弱、産婦人科クリニックで勤務しておりますが、2017年にキャリアアップの目的で社労士資格を取得しました。経営者に対する恩もあり、当初は社会保険労務士としての独立を考えておりませんでした。しかしお付き合いの延長で開業塾を受講する機会があり、周りの仲間の熱量に影響されて開業への意欲が高まっていきました。本業の退職は考えていなかったため、大いに悩んだ末に「副業で開業する」という方向性を導き出しました。
当たり前の話として毎年合格者の出る社会保険労務士の資格保有者の人数は年々増加しております。自分が開業するにあたり、スタンダードかつオールマイティな社会保険労務士事務所は山ほど存在しており、これからの時代は業種や業務に対して何かしら特化した経営をしなければ上手くいかないだろうと強く感じました。
そこで私は自分の一番の強みである「産婦人科クリニック」での勤務経験や知識を活かした社会保険労務士事務所を開業することにいたしました。
医療機関には病床数に応じて「病院」と「診療所(クリニック)」がございます。私は産婦人科の中でも診療所(クリニック)での勤務経験しかないため、産婦人科全体を対象にするわけではなく、あえて産婦人科クリニックのみに特化した事務所としております。
業種特化の趣旨とは若干逸れますが、実は「副業開業」というのも業種特化を始める良いきっかけでした。副業開業の良い部分として、「特化部分をとことん尖らせることができる」「ターゲットをしっかり絞ることができる」ところがあります。通常はジャンルを絞れば絞るほど、「最初の経営や資金繰りが上手く行くだろうか」「お客様が来るだろうか」という不安があります。しかし給与収入を確保したままスタートする副業開業では、最初にお客様が来なかったとしてもリスクを最小限に抑えることができます。
もしまだ在職中で、これから開業されるご予定の先生方においては、副業開業からスタートするという道もぜひご検討いただけましたら幸いです。
●2.業種特化で経営するメリット
業種特化で経営することにより、業種の動向が掴みやすくなります。
このように業種特化を謳っていることで、産婦人科クリニックだけでなく、関連会社までお客様として繋がれる可能性があり、産婦人科クリニックという業種をより広く見渡したところからの情報の収集やご提供がしやすくなっていると実感しております。さらに現職の事務長として勤務をしながら事務所経営しているため、三号業務としても常に最新の活きた情報がご提供できることは業種特化を謳っている事務所としての大きな強みだと感じております。
●3.業種における課題
様々な業種にも課題があるように産婦人科クリニックにも課題を感じる部分があります。
現在、様々なクリニックに携わっている中で特に感じる部分は次の通りです。
・医師を中心とする資格職の人手不足
・出産数の低下
・レセプト(診療報酬請求)の特殊性
・医師の時間外労働の問題
医師はもちろん、助産師、看護師、臨床検査技師など、医療職の求人採用は全体的にかなり難しく、よくお客様からご相談を受ける内容です。
そしてコロナ禍以降に多少は改善したとは言え、国全体としての出産数の低下に歯止めがかかっておりません。ここ数年で出産数低下による分娩取り止めや閉院が目立つようになってきました。閉院までには至らないとしても各施設における出産数は総じて減っており、事業の根底に関わる大きな課題だと認識しております。
レセプトにおいては、産婦人科には自費の部分と保険の部分があり、他の診療科の医療事務とは感覚が異なるところがあります。そのため医療事務経験者を雇ったら即戦力として貢献してもらえるかというと、必ずしもそうではありません。
医師の働き方改革における時間外労働の上限規制の関係で、宿日直許可申請についてのご相談も増えてきております。
このような課題を改めて並べたときに、大半の課題については「いかに従業員を定着させるか」が極めて重要であると考えております。働きやすい職場環境や人間関係はもちろん、給与面も含めた待遇の向上が必要不可欠です。
●4.最後に
近い将来には「士業の仕事はAIに奪われる」という話もありますが、ヒト・モノ・カネの内、ヒトに携わる社会保険労務士はAIに出来ないことも多いため、個人的に未来は明るいと思っております。
ただ一方で、残念ながら私が関わる産婦人科の未来については日本の人口減少、出産数の低下を鑑みると今のところ明るくないかもしれません。しかし、絶対に無くならない大切な役割を担う場所であるということについては今後も変わることはありません。
今後も、事業における無駄の削減、従業員の定着と活躍、何より「長く存続して地域に愛される、たくさんのご出産に溢れる産婦人科クリニック」を運営していただけるよう、これからも業種特化のメリットを十二分に発揮してご対応に努めていきたいと考えております。
そして私がこのようなことを申し上げるのは大変おこがましいのですが、引いてはご出産という幸せなイベントが増えていく日本の未来に対して、少しでも貢献することができれば幸せだと感じます。