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法令改正最前線(第65回『全世代型社会保障構築会議 報告書』)

<滝 則茂 氏>

今回は、昨年の12月16日に公表された「全世代型社会保障構築会議」の報告書を取り上げることとします。

1.これまでの経緯
この全世代型社会保障構築会議というのは、2021年11月から全世代型社会保障改革担当大臣の下で開催された有識者(学者等)を構成員とする会議です。同会議は、12回にわたって開催してきた議論等の成果を報告書として取りまとめ、岸田首相を本部長とする「全世代型社会保障構築本部」に報告を行いました。

2.今後の改革に取り組む分野
本報告書では、以下の4つの分野につき、改革の方向性を示し、今後の法改正等につながる重要な提言を行っています。

①子ども・子育て支援の充実
②働き方に中立的な社会保障制度等の構築
③医療・介護制度の改革
④「地域共生社会」の実現

上記のうち、社労士業務との関わりが最も強いのは、②の「働き方に中立的な社会保障制度等の構築」分野であると思われます。以下、本稿では、②の部分の報告書の記述に関し、特に注目すべき事項を紹介します。

3.働き方に中立的な社会保障制度等の構築
〈勤労者皆保険の実現に向けた取組〉
勤労者の働き方や勤め先の企業規模・業種に関わらない、雇用の在り方に中立的な社会保障制度としていくという観点から取り組むべき課題として、たとえば、以下のようなものがあるとしています。

・短時間労働者への被用者保険の適用に関する企業規模要件の撤廃
 週20時間以上勤務する短時間労働者については、勤め先企業の規模によって被用者保険適用の違いが生じ
 る現状を改め、企業規模要件を早急に撤廃すべきだとしています。

・個人事業所の非適用業種の解消
 常時5人以上規模の個人事業所の非適用業種について、いずれの業種かによって被用者の強制適用の有無
 が異なる状況の解消を早急に図るべき、また、5人未満規模の個人事業所についても、被用者保険の適用
 を図る道筋を検討すべきであるとしています。

・週労働時間20時間未満の短時間労働者への適用拡大
 上記の短時間労働者についても、被用者保険の適用除外となっている規定を見直し、適用拡大を図ること
 が適当と考えられ、そのための具体的方策につき、着実に検討を進めるべきだとしています。

〈労働市場や雇用の在り方の見直し〉
子育て・若者世代の非正規雇用労働者は、賃金や能力開発等に関する待遇差や雇用の不安定さなどに直面し、これが少子化の一因になっているとも考えられるので、雇用形態に関わらない公正な待遇確保に向けた方策につき、引き続き促進する必要がある、また、子育て・若者世代が、個人のライフスタイル・ライフサイクルに応じた多様な働き方が可能となり、将来への展望を持って安心して働き、子育てすることができる機能的な労働市場の整備が重要だとしています。そして、非正規雇用労働者を取り巻く課題の解決のために、たとえば、以下のようなアクションを起こすべきだという趣旨の提言を行っています。

・「同一労働同一賃金ガイドライン」の効果検証と、それを踏まえた見直し
・有期雇用労働者の「無期転換ルール」につき、その実効性を更に高めるための見直し
・「多様な正社員」を普及・促進するための方策の検討

4.今後の見通し
勤労者皆保険の実現に向けた取組のうち、本稿で指摘した項目に関しては、いずれも、「次期年金制度改正に向けて検討・実施すべき項目」として位置付けられています。また、労働市場や雇用の見直しに関する上記の提言事項に関しても、「速やかに検討・実施すべき事項」であるとされています。そのため、厚生労働省所管の審議会等で、検討されることになると思われますが、使用者側が、早期の見直しには難色を示すテーマが多いと考えられるため、早期に制度改正が実現するものは少ないのではないでしょうか。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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