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法令改正最前線(第50回『副業・兼業の場合の労働時間管理』)

<滝 則茂 氏>

「働き方改革」の施策の一つとして政府が打ち出している「副業・兼業の促進」については、論点が多岐にわたっていますが、この施策に関する最近の動きとして、「副業・兼業の場合の労働時間管理」これをどうするかが検討課題となっています。このテーマは、労基法38条1項の解釈・運用に関するものですから、法改正というよりは、指針の策定や通達の発出で対応されることになると思われます。働き方の多様化を認める必要性が高まっている今日、社労士としては、このテーマについて、理解を深めていく必要があるのではないでしょうか。

1.従来の議論の展開

上記のテーマに関し、一昨年の7月、厚生労働省は、学識経験者による「副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会」を組織しました。この検討会は、計9回開催され、昨年の8月に、報告書が公表されています。そして、この検討会報告を踏まえ、昨年の9月から労働政策審議会労働条件分科会において、公・労・使三者による審議が始まりました。労政審でのこのテーマに関する審議は、「賃金請求権の消滅時効」等、優先すべき課題が出てきたため、一時期中断されていましたが、本年6月25日の会議から議題として復活しています。そして、この日に、これまでの審議経過を踏まえた「副業・兼業の場合の労働時間管理に関する論点及び整理事項(案)」が資料として審議会に提出され、インターネットによる公表も行われています。

2.労政審での今後の議論が求められている事項

上記の資料によれば、副業・兼業の場合の労働時間管理に関し、労政審に今回議論してもらいたい事項として、以下の項目が掲げられています。1労働時間通算が必要となる場合2副業・兼業の確認3労働時間の通算4時間外労働の割増賃金の取扱い5簡便な労働時間管理の方法以下、本稿では上記のうち、「3労働時間の通算」について、上記資料の記述のポイントを紹介することとします。

3.労働時間の通算

⑴基本的事項

  • ・副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者は、労基法38条1項により、労働時間を通算して、管理する。
  • ・労働時間の通算は、自らの事業場の労働時間と労働者からの申告等により把握した他の使用者の事業場の労働時間を通算することにより行う。
  • ・労働時間の通算は、自らの事業場の労働時間制度を基に、他の使用者の事業場の労働時間とを通算することによって行う。
  • ・通算した結果、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分が、時間外労働となる。

⑵副業・兼業の開始前(所定労働時間の通算)

  • ・副業・兼業の開始前に、自らの事業場と他の使用者の事業場の所定労働時間を通算し、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認する。
  • ・上記の確認の結果、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、時間的に後から労働契約を締結した使用者における当該超える部分が時間外労働となる。

⑶副業・兼業の開始後(所定外労働時間の通算)

  • ・⑵の所定労働時間の通算に加え、副業・兼業の開始後に、自らの事業場の所定外労働時間と他の使用者の事業場の所定労働時間とを所定外労働が行われる順に通算し、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分の有無を確認する。
  • ・上記の通算の結果、自らの事業場の労働時間制度における法定労働時間を超える部分がある場合は、その部分が時間外労働となる。
  • ・他の使用者の事業場の実労働時間は、法を順守するため把握する必要があるが、必ずしも日々把握する必要はなく、法を遵守するために必要な頻度で把握すれば足りる。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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