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業種特化社労士の視点から(第22回 『産業廃棄物処理業編』)
<今井 正美 氏>
⑴はじめに
人が生活や事業活動を行う過程では、必ず廃棄物が「ごみ」として排出されます。家庭から排出されるごみは、生活系の一般廃棄物として住所地を管轄する区市町村が処理を行い、企業などの事業活動から排出されるごみは、産業廃棄物又は事業系の一般廃棄物として、ごみの排出者(排出事業者)が責任を持って処理を行うこととされています。排出事業者として廃棄物の適正処理やリサイクルの処理責任を求められる企業や団体が、廃棄物処理法の処理基準を遵守して、自らが排出したごみの処理を行うことは困難なので、自治体からの許可(一般廃棄物は区市町村、産業廃棄物は都道府県や政令市・中核市)を受けている業者に廃棄物処理の業務を委託することになります。
⑵産業廃棄物処理業界について
産業廃棄物とは、事業活動に伴い排出される廃プラスチック類や金属くずなど、廃棄物処理法で指定されている20種類の廃棄物です。そして、産業廃棄物処理業の許可業者は、「収集運搬業者」と「処分業者」に大きく分かれます。廃棄物処理料は、廃棄物の収集運搬から処分(中間処理、最終処分)までの料金の合計額で、収集運搬業者と処分業者それぞれに支払われます。このような処理料金体系の産業廃棄物処理業界の特徴は、廃棄物処理法で業務の「再委託が原則として禁止」されていることです。産業廃棄物処理業の許可は、個人でも上場されている法人でも取得に必要な基準を満たしていれば同じ許可で、事業規模に関係なく、都道府県内という営業範囲内で競争しなければなりません。 皆さんの事務所でも、本来業務とは関係の薄い廃棄物処理経費などは出来る限り低く抑えたいと考えていると思います。中小の処理業者は、お客さんである排出事業者の要求に応えるべく、廃棄物処理料金を安くする工夫や努力をしますが、その結果が労働基準法や労働安全衛生法などへの抵触や不法投棄など廃棄物処理法違反となって出てきてしまうことがあります。
⑶産業廃棄物処理業界との係わりとその労働環境
業界との係わりの始まりは、プロフィール欄にも記載しているとおり、以前に就いていた仕事の関係です。現在では、行政書士業務である産業廃棄物処理業の許可や優良産廃処理業者の認定の取得・更新申請等の代理業務の際に、3ケ月から半年程度の期間、依頼された会社の社長や役員との付き合いができるので、その間に社労士業務の顧問契約や廃棄物処理のコンサル契約の話につなげています。 次に、皆さんの事務所が入っているビル等にも収集に来ている産業廃棄物収集運搬業界の労働環境にまつわる話を中心にお伝えします。 特徴の1つ目は、始業時間が早い点です。朝の交通渋滞を避けて、廃棄物の収集運搬効率を高めるため、早朝の2~3時頃から業務が始まります。1日の法定労働時間は午前中までということになりますが、収集した廃棄物を搬入する中間処理施設が混雑している場合は、そこでの待ち時間が発生し、帰社が遅れることや、ほとんどの会社が1週間の固定休日は日曜日だけなどにより、固定残業代の支給や変形労働時間制を採用している場合が多くあります。一定数の人員がいれば、交代制のシフトを組めますが、中小の事業者では人材の確保も困難で、長時間労働の恒常化や年休が取得しづらい環境となっています。 特徴の2つ目は、労働災害の発生要因が多い点です。清掃車両のあおり等への「はさまれ・巻き込まれ」や車両昇降時の捻挫、ごみ袋を無理な体制で持ち上げた際の腰痛、運転時の交通事故など作業中に多く存在します。労働安全衛生委員会等でのヒヤリ・ハット事例の研修やKYT(危険予知訓練)、作業手順書の作成等の対策を講じていますが、東京都内における産業廃棄物処分業を含めた昨年9月末時点での1年間の休業4日以上の労働災害発生件数は133件で、前年同時期と比較して34件(34.3%)増となっています。
⑷社労士としての対応
前述(3)で記載した特徴などから、社労士業務の中心は労務管理になります。時間外労働の上限規制への対応のための長時間労働の是正や年休5日取得の義務化などについて、私は顧問先就業規則の改定、業界団体での講習、機関紙への投稿などを行っています。しかし、排出事業者からの産業廃棄物の処理依頼は日時を問われないので、具体的にどのように対応していくかが難しい点です。 その対応方法の1つ目としては、業務のICT化を図ることが挙げられます。廃棄物の収集現場は1人の作業員が1台の清掃車両で100ケ所以上の回収拠点を周る労働集約的な現場です。安全運転をしながら、それだけの回収場所の位置と廃棄物の排出量を把握するには一定の経験が必要になります。その経験を補い、作業員1人あたりの労働生産性を向上させるため、運行管理ソフトの活用による収集運搬業務や回収後の事務処理業務の合理化、またドライブレコーダー等の活用による経済的な走行ルートの策定、さらには動画を活用した事故防止教育などが考えられます。 2つ目が「健康経営」の導入です。健康経営により組織を活性化させ、業績や企業イメージの向上、人材の確保につなげます。顧問先の一社が、一昨年末に協会けんぽ東京支部に健康企業宣言を行い、昨年末に健康優良企業の「銀」の認定を受けました。1年間、生活習慣病対策や過重労働対策、喫煙対策などの課題に対応したことは、社員の健康への自信、幸福感の向上につながり、それが会社にとっても良い結果をもたらしているとのことです。
⑸おわりに
ウミガメの鼻の穴に詰まったプラスチック製ストローごみを抜き出す衝撃的な映像の影響などにより、海ごみの原因となる使い捨てプラスチック製品の使用抑制が世界に広がるなど、世の中は持続可能な資源利用へと向っています。日本でも、あるファミリーレストランではドリンクバーにストローが置いてありませんし、今年7月からはレジ袋の全面有料化も始まります。東京2020オリンピック・パラリンピック大会では、競技会場や選手村等から排出される廃棄物の資源化率65%(人口50万人以上の自治体における、直近の一般廃棄物資源化率全国1位は千葉市の32.8%)を目標に掲げ、大会後のレガシーとして残そうとしています。 このような状況の中、廃棄物処理業界は、一般廃棄物・産業廃棄物を問わず、徐々に「廃棄物処理業」から「資源循環業」に転換を図りつつあります。持続可能な3R(Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル))の徹底や資源利用に向けた、より公共性の高い事業展開には、廃棄物処理法はもとより、労働基準法を始めとした労働法や社会保険関係法の法令順守が求められます。そのことからも、廃棄物処理業界は、社会保険労務士にとって「求められている」「やりがいのある業界」になっていくと思われます。私自身も業界の側だけでなく、排出事業者の側からも廃棄物に係わって行きたいと考えています。