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法令改正最前線(第46回『被用者保険の適用事業所の範囲の見直し』)
<滝 則茂 氏>
今回は、第14回社会保障審議会年金部会(2019年11月13日)に厚生労働省年金局が提出した資料「被用者保険の適用事業所の範囲の見直し」について紹介します。これは、被用者保険(健康保険、厚生年金)の適用事業所の範囲の拡大(士業の個人事務所を強制適用とする)に関する提言を含んでおり、注目すべきものと言えます。
1.本テーマが登場した経緯
本テーマは、「働き方の多様化を踏まえた社会保険の対応に関する懇談会」(2018年12月18日以降、全8回開催)における議論の中で登場したもので、同懇談会のとりまとめ(2019年9月20日)において、以下のような「今後の検討の方向性」が示されました。 「適用事業所の範囲については、本来、事業形態、業種、従業員数などにかかわらず被用者にふさわしい保障を確保するのが基本であるとの考え方が示された。その上で、非適用とされた制度創設時の考え方と現状、各業種それぞれの経営・雇用環境などを個別に踏まえつつ見直しを検討すべきとの認識が共有された」 このとりまとめを受けて、厚生労働省年金局が、次のステップである「社会保障審議会年金部会」での検討に資するよう、資料を作成し、提出しました。
2.資料の中で示された見直しの方向性
法律・会計に係る行政手続等を扱う「士業」については、被用者保険適用に係る事務処理能力が期待できる上、
- ①個人事業所の割合が高い(特に常用雇用者数5人以上の個人事業所の割合が他業種に比べ高い)ことから、被用者であっても非適用となっている方が多いと見込まれる
- ②制度上、法人化に一定の制約があるか、そもそも法人化が不可能な業種もあるため、他業種であれば大半が法人化しているような規模でも個人事務所に留まっている割合が高い
といった要素を考慮し、適用業種とすることを検討すべきだ、との見直しの方向性が示されています。 要は、現在、従業員数を問わず任意適用とされている、士業の個人経営の事業所について、強制適用とする方向で検討してほしいとの提言です。
3.資料の中で示された「士業」事務所の実態
本資料においては、総務省「平成28年経済サンセス(活動調査)」を出典として、「士業」事務所の実態が紹介されていますので、そのデータの一部を紹介します。
- ・全事業所に占める個人事業所の割合 → 90.7%
- ・個人かつ常用労働者数(※)5人以上の事業所の割合 → 12.3%
- ※常用労働者には、短時間労働者も含む(以下、同様)
- ・常用労働者数5~9人の事業所における法人割合 → 20.7%
- ・常用労働者数100人以上の事業所における法人割合 → 79.6%
4.今後の見通し
まずは、社会保障審議会年金部会での審議が注目されます。被用者保険の適用に関する例外を少なくしていくというのは、現代社会における基本的な要請と考えられますので、少なくとも5人以上規模の事業所に係る見直しに対する異論はほとんど出ないのではないかと思われます。他方、5人未満の零細事業所についてみると、ここまで強制適用に含めると、「士業」のみを特別扱いすることになりますので、そのような必要性・合理性があるのかが問われることになり、これは時期尚早ということで今回は見送りになるのではないでしょうか。 社会保障審議会年金部会で、見直しの方向性が承認されれば、次は、法改正の国会審議になります。早ければ、来年の通常国会に年金関連の改正法案が提出される予定ですので、この中に盛り込まれるものと思われます。法改正が通ったとしても、一定の周知期間が必要となりますので、施行は最速でも2021年度からとなるのではないでしょうか。