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法令改正最前線(第45回『2019年財政検証を踏まえた年金制度改正の方向性』)

<滝 則茂 氏>

注目されていた「国民年金及び厚生年金の財政の現況及び見通し」(いわゆる財政検証)が8月27日の第9回社会保障審議会年金部会で公表されました。そこで今回は、この財政検証で示唆されている今後の年金制度改正の方向性について見ていくことにします。 今回の財政検証においては、「オプション試算」という形で、今後の年金制度改正についての方向性が示唆されています。

1.オプションA 被用者保険の更なる適用拡大

この点に関しては、従来、週30時間以上とされてきた厚生年金保険の適用範囲が、2016年10月から、501人以上規模の企業において、一定の要件を満たした週20時間以上の短時間労働者にも拡大されています。ただ現状では、その効果は40万人程度の被保険者増にとどまっており、更なる適用拡大に向けた3つの選択肢が示されています。

  • ①125万人ベース:被用者保険の適用対象となる現行の企業規模要件を廃止するもので、他の要件は、維持されます。
  • ②335万人ベース:被用者保険の適用対象となる現行の賃金要件(月8万8千円以上)及び企業規模要件を廃止するもので、他の要件は維持されます。
  • ③1,050万人ベース:一定の賃金収入(月5万8千円以上)がある全ての被用者に適用を拡大するものです。

試算の結果、「被用者保険の適用拡大」は、年金の給付水準を確保する上でプラスであること(所得代替率や基礎年金の水準確保に効果が大きい)が確認されたとされています。

2.オプションB 保険料拠出期間の延長と受給開始年齢の選択

ここでは、以下の5つのパターンを選択肢として示し、試算を行っています。

  • ①基礎年金の拠出期間延長:基礎年金の保険料納付年数の上限を現在の40年(20~60歳)から45年(20~65歳)に延長し、納付年数が伸びた分に合わせて基礎年金が増額されるとするものです。
  • ②在職老齢年金の見直し:65歳以上の在職老齢年金(いわゆる高在老)の仕組みを廃止・緩和するもので、ここでは、20~60歳の40年拠出を前提としています。
  • ③厚生年金の加入年齢の引き上げ:加入年齢の上限を現在の70歳から75歳に延長するもので、ここでも、20~60歳の40年拠出を前提としています。
  • ④就労延長と受給開始時期の選択肢の拡大:受給開始可能期間の年齢上限(支給繰下げの時期)を現在の70歳から75歳まで拡大し、その場合に75歳まで働いて受給開始した場合を想定しています。
  • ⑤④に①~③全てを加味した上で、加入期間と繰下げ時期を75歳まで拡大し、75歳まで就業して厚生年金に加入(75歳まで働いて受給開始)した場合を想定しています。

試算の結果、「保険料の拠出期間の延長」や「受給開始時期の繰下げ選択」が、年金の給付水準を確保する上でプラスであることが確認されたとしています。ただし、②については、給付水準調整後の所得代替率が、ほんのわずかですが低下するといった試算結果になっています。

3.今後の見通し

2020年の通常国会には、年金制度見直しに関する改正法案が提出される公算が高いと考えられています。その内容は、今回の財政検証の結果を一定程度踏まえたものになると思われますが、高齢者雇用の問題など、関連論点とのすり合わせが必要となります。また、企業の負担増につながる内容も含まれているため、制度改正が本格的に施行されるまでには、相当な猶予期間が置かれるものと思われます。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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