トップページ ≫ サービス一覧 ≫ NETWORK INFORMATION CHUKIDAN ≫ 法令改正最前線
NETWORK INFORMATION CHUKIDAN
法令改正最前線(第39回『労政審労働政策基本部会報告書』)
<滝 則茂 氏>
今回は、本年9月5日付けで公表された「労働政策審議会労働政策基本部会報告書」を取り上げることとします。
1.報告書が登場した経緯
労働政策審議会には、従来から多くの分科会や部会(たとえば、労働条件分科会、職業安定分科会雇用保険部会)が設置され、それぞれの分科会・部会を単位に法改正に向けた検討等が行われてきました。しかし、このような労働政策の決定プロセスについては、「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」の報告書(平成28年12月14日公表)において、
- ①分科会・部会を横断するような課題については、議論がされにくい、
- ②法改正の内容の検討が中心となり、中長期的課題の議論が十分ではない、
- ③働き方の多様化により個人請負事業主など旧来の労使の枠にはまりにくい課題が生じてきている、
などの指摘がなされたため、厚生労働省は、有識者による労働政策審議会労働政策基本部会(以下、「基本部会」とします。)を設置しました。 この基本部会は、平成29年7月31日から平成30年7月30日まで全10回開催されています。そして、
- ①技術革新(AI等)の動向と労働への影響等、
- ②生産性向上、円滑な労働移動、職業能力開発、
- ③時間・空間・企業に縛られない働き方(テレワーク、副業・兼業、雇用類似の働き方)
等について審議が行われ、これらに関する中長期的課題について整理した報告書(サブタイトル「進化する時代の中で、進化する働き方のために」)が取りまとめられ、公表されるに至りました。
2.雇用類似の働き方
今回の報告書で取り上げられている諸テーマのうち、今後の社労士実務との関わりで注目度が高いと思われる「雇用類似の働き方」について、報告書のポイントを紹介することとします。
(1)現状
我が国では、労基法上の労働者でない場合は、基本的には労働関係法令の保護の対象となりませんが、昨今、フリーランスや自営型テレワーク(クラウドソーシング等)といった、企業組織に属さない(雇用契約に依らない)「雇用」と「自営」の中間的な働き方――「雇用類似の働き方」も拡がりを見せています。そこで「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日決定)を踏まえ、雇用類似の働き方に関する実態等を把握・分析し、課題整理を行う「雇用類似の働き方に関する検討会」が開催され、平成30年3月に報告書がまとめられました。この検討会報告書では、雇用類似の働き方について、
- ①事業者間取引としてとらえ、経済法のルールに委ねるのか、
- ②労働者に準ずるものとしてとらえ、現行の労働関係法令の労働者保護ルールを参考とした保護等を考えるのか、
といった点につき、更に議論を深めていくことが必要である、といった問題提起がなされています。
(2)今後の課題
雇用関係に依らない働き方の拡大により、労働行政でも従来の労基法上の労働者に限らず、幅広く多様な働く人を対象とし、必要な施策を考えることが求められています。仮に保護する必要があるとすれば、
- ①発注者と雇用類似の働き方のガイドラインの策定、
- ②個別のケースに対し、労働者性の範囲を、解釈で積極的に拡大、
- ③労基法上の労働者概念の再定義(拡大)、
- ④雇用類似の働き方の者に対し、労働関係法令の保護を拡張する制度の創設
など、様々な方法が考えられます。 雇用類似の働き方の保護等の在り方については、法律、経済学等の専門家による検討に速やかに着手することが必要であり、検討に当たっては、保護の対象者、契約条件の明示、契約内容の決定・変更・終了のルールの明確化、スキルアップやキャリアアップ、出産、育児、介護等との両立、集団的労使関係、社会保障等の保護の内容および保護の方法について、実態把握と並行して検討を進めることが必要であるとされました。
※本内容は、2018年10月発刊時点の情報となります。