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業種特化社労士の視点から(第12回『エステ業編』)
<小田切 朋子 氏>
はじめに
「エステ」というと痩身などの施術のみと思われがちですが、エステ業の中には、ネイルサロン、まつげエクステサロン、痩身やリラックスを目的としたエステサロンなど、いくつかの種類が含まれます。それぞれの業種ごとに働き方や資格など、取り巻く労働環境が異なりますので、各業種の特徴を踏まえつつ、まとめていきたいと思います。
エステ業界の特徴と現状
(1)雇用形態と資格
①エステサロン・ネイルサロン
エステティシャンとネイリストについては、特段免許は必要ないため、雇用の敷居が低く、求人募集の反応も悪くないようです。しかしながら、資格が必要ないが故に未経験で応募してくる方も多く、育成が必要な業種の一つでもあります。また、経験者は「雇用」ではなく「業務委託」を好む傾向にあります。経営者や従業員の方々が契約形態を意識していることはあまりありませんが、働き方を見ていると、「指名が入った日時だけ来て、その時間分の報酬をもらって帰る」「お店の電話対応や新規顧客の対応、掃除などの雑務はせず、自分の指名客だけの対応をする」といったいわゆる指揮命令権の及ばない働き方をしている場合が多々あります。
②まつげエクステサロン
エステサロンやネイルサロンに併設されていることの多いまつげエクステサロンですが、こちらは美容師免許が必要となります。オーナーが持っていれば良いわけではなく、免許取得者でない者が施術料を受け取ってまつ毛の手入れをすることは違法にあたります。そのため、①のエステサロンやネイルサロンと違って、採用が非常に難しく、会社が費用を負担して、エステサロンやネイルサロンのスタッフを美容学校に通わせて、免許を取得させているというケースもあります。
(2)採用・定着に関する問題
前述のような事情がありますので、即戦力採用ばかりしていると、管理やコントロールが及ばず、会社の理念・経営者の想い・各店のコンセプトなどが打ち出せないといった事態に陥る恐れがあり、その一方で、未経験者ばかり採用していては、育成が追い付かず、店舗運営に支障をきたす可能性があります。実際には、両者をバランスよく採用することで、なんとかシフトを回しているサロンが多いようです。 また、女性が多く、資格や経験の有無といった距離感を生む要因も目立ちやすい職場であることもあってか、人間関係によるトラブルやそれによる離職も、比較的多い印象を受けます。また男性が経営者である場合は、妊娠や出産への理解不足から発生するトラブルも散見されます。
社労士へのニーズはあるのか
このように、法律や労務といった認識が浸透していないサロンが多くありますので、まず従業員の働き方を聞いて雇用と業務委託の違いを説明するだけでも、大きな衝撃を持って受け入れられる方が多くある印象です。現実的には、業務委託の形態をとっている免許所持者を上手く配置して店舗を回していかないといけないので、シフトの組み方や指揮命令権の有無などを確認しつつ、業務委託から雇用への切り替えを勧めさせていただくこともあります。 また、店舗内ルールのようなものはあっても、就業規則や36協定、雇用契約書や出勤簿などの法定の書類を備えていない会社が大半です。労働時間をきちんと把握管理していない、残業代を払っていない(払わなくてはいけない時間数を知らない)といった会社も多くあります。社労士に求められる業務や関与するチャンスはまだまだありそうです。 加えてこの業界でよく目につくのが、複数事業を経営している経営者の多さです。当事務所のエステ業の顧問先もほとんどが他にも事業を展開しています。例えば、エステサロンと保育園、ネイルサロンと飲食店、ネイルサロンと整骨院、エステサロンと整骨院、ネイルサロンと美容院など多様なものがあり、どちらかといえば他業種からの進出の方が珍しくないほどです。社労士としては、エステ業だけではなく、もう一方の事業に関する労務知識も必要になりますが、働き方が似ているサービス業への業種展開が多いため、この点ではそれほど複雑なケースはありません。 さらにエステ業に特徴的な点として、多店舗展開が非常に多いことが挙げられます。新しく支店をオープンしたかと思うと来月はまた隣の駅に、そうこうしているうちに1店舗閉店して別の地域へ出店の計画を立てる・・・といった具合に店舗展開のスピードも非常に速いです。そのため、定期的に訪問するなどしてきちんと新店舗設立の計画を聞いておかないと、労災保険の適用をしていないままオープンしてしまっている店などが出てきてしまいます。人の入れ替わりが大変激しいので、入退者の手続代行ひとつをとっても、社労士の支援は大いに必要とされていますし、そこからの業務の拡がりも期待できる業界といえるでしょう。
社労士として最低限必要な知識
エステ業に関与するに当たっては、産前産後や育児休業など、女性従業員に関する妊娠・出産・育児に関する知識が豊富であることがまず求められます。入退者や育児休業給付金申請に関する手続きを迅速・正確にこなせる体制も整えておくと良いでしょう。シフト制の勤務体系が多いため、変形労働時間制の導入や制度設計、就業規則の作成または改定が必要になることもあります。指名の数に応じて歩合給を支払っているサロンも多くありますので、単価計算などをはじめとして給与計算の基礎知識は押さえておきましょう。アプローチする際には、法律に沿ったルールをきちんと整えることからご提案して信頼関係を築くことができれば、顧問契約へも自然と繋がっていくことと思います。 また、他の業種と比べると外国人雇用がほとんどありません。外国人雇用の多いマッサージ業界とは違い、客単価が高いため値下げ交渉をされることもあまりないようです。なお、規模によっては従業員本人からの要望もあり、なかなか社会保険に加入してくれない経営者の方もいますが、ただ単に法律を知らないだけということもありますので、変形労働時間制の導入を提案するだけでも社労士の必要性を感じてくれると思います。
エステ業界へのビジネスの可能性
他の企業に比べて女性経営者の割合が多い業種でもあります。特にエステサロンの多くは男性の立ち入り禁止となっているところが多く、女性の社労士の方がより入り込み易い業種であるとも言えます。そのため、男性の社労士の方であれば外での打合せか来所型にするしかありませんが、女性の社労士の方であれば、店舗への訪問ができる分より近い距離感でアプローチできるかもしれません。また、男性経営者にしても女性経営者にしても、おしゃれに気を遣っている方が多いため、普段から身だしなみを整えることを意識してみるのもおすすめです。 営業テクニックですが、大手が運営している店舗ではなく、地域密着で多店舗展開されている事業所へ営業をかける方が案件に繋がり易い実感があります。また、ホームページや求人票などで経営者を確認できるようであれば、女性の社労士の方は是非女性経営者の店舗へアプローチをかけてみて下さい。引き換えに、エステやネイルなど高いコースを契約されられるのではとご心配されるかもしれませんが、そこはきちんと切り分けてお話しできる経営者の方がほとんどです(今まで勧誘などをされたことは全くありません。逆に施術を受けたいと申し出れば通常価格よりも安い価格やお試しと言って無料で施術して下さるところもあります)。 最近は男性向けのエステサロンも増えてきていますので、まだまだマーケットは拡大傾向にあります。社労士にとってはとても参入しやすい業種であると思いますので、是非みなさんもトライしてみて下さい。
※本内容は、2018年8月発刊時点の情報となります。