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業種特化社労士の視点から(第8回『建設業編』)
<蒲島 竜也 氏>
はじめに
建設業の事業者数は465,454業者(平成29年3月末現在)に上っています。ここ数年は毎年約2万弱の事業者が廃業し、ほぼ同じぐらいの事業者が新設され、全体では微減といった推移を続けています。しかも資本金3億円未満の事業者数は462,843業者となっていて、建設業許可業者数全体の99.4%を占めています。 中小零細企業が多く、労働保険の事務を依頼しているケースのほとんどが労働保険事務組合に委託しています。そのためか独立系の社会保険労務士事務所が関与しているケースも少ないです。 社長が現場に入っていることも多く、労働基準法や労働安全衛生法の理解も少ないと思われます。労働基準監督署に対しての認識もうすく、是正報告を求められても平気で無視しているようなケースも散見されます。
(1)建設業界について 建設業事業者はエリア関係なく存在
建設業事業者は数の多い少ないはあるにせよ、エリアに関係なく存在します。人口が多い少ないに関わらず建物は存在し道路は存在します。またそのメンテナンスは必ず必要になります。各地方公共団体に建設業はなくてはならない業種であるので過疎化が進み始めた市町村にも当然に存在します。 我々社会保険労務士の同業者のお話しの中に事業者数の話題が挙がることがまれにありますが、建設業にかぎっては都会であろうが田舎であろうが、ある一定数の事業者は存在するので、IT企業や飲食店と違いエリアに関係なく顧客ターゲットになります。
建設業事業者は事前情報を得やすい
建設業は許可を受けなければある一定以上の規模の元請工事を行うことができません。ですから国土交通省ないしは都道府県に許可を受けなければなりません。許可を受ける段階で企業の情報を開示しなければなりません。すなわち費用をかければ(帝国データバンクや東京商工リサーチ等)、もしくは手間をかければある程度の情報を簡単に手に入れることができます。 我々がご紹介をいただいたとき、その企業がどのくらいの年商なのか従業員数なのか、たとえホームページ等がなかったとしても知ることができるのです。いわゆる決算の数字も公表されているのは大きいです。
私の建設業との関わり
私は特段建設業に特化しようと考えたわけではありませんでした。最初に建設業のお取引をいただいたのは、開業1年ぐらい経過した時、当事務所のホームページを見たという建設業事業者様からの問い合わせがきっかけでした。それから顧問先様からの紹介や隣接士業様からの紹介で増えていって、気がついたらかなりの数の建設事業者になっていたというところです。 千葉で開業しているということもあるのか、建設業事業者と介護事業者の割合が大きくなっています。この2つの業種で当社の顧問先の約半数を占めています。その点からも千葉県は世間が思っていらっしゃるほど都会ではないと言えるかもしれません。
(2)建設業と社会保険労務士との関わり
建設業は社会保険労務士にとって仕事の宝庫 建設業は社会保険労務士にとって業務の幅が他の業種にくらべて広いです。労働保険の事務においても二元適用であり、かつ有期事業報告等、他の業種に比べて複雑な作業を行わなければならないのです。 また安全衛生の面からも、いったん事故が起こった時にはその再発防止を含めた対応、被災者の各種給付の説明や諸手続き、示談交渉の基礎資料作りなど多くの仕事があります。 またクライアント企業様の安全衛生大会に招聘され講師を行うなど多くの業務が依頼されます。
まだ終わらない社会保険未加入問題
平成24年3月26日、中央建設業審議会による「建設産業における社会保険加入の徹底について」が提言されました。その提言書を受けて建設業法施行規則の一部が改正され建設業者への社会保険未加入問題が大きく取り沙汰されることになりました。まさに行政から社会保険労務士の営業の後押しをしてもらっているといっても過言ではない状況になっています。当事務所には、この改正以降、商工会議所や商工会からこの問題についての講演依頼が舞い込み、一時期は本当に忙しくさせてもらいました。 社会保険未加入問題はなにも建設業に限ったわけではないのですが、建設業においては他の業種と2つの点で大いに異なります。 まず1つめは前にも述べましたが建設業は許可業種であるということです。建設業者は5年に1度、建設業許可更新を行わなければなりません。その更新時に社会保険加入の有無がチェックされるという点です。もし未加入であれば都道府県等から社会保険加入への厳しい指導が行われ、それでも加入しない場合は年金事務所等に通報されます。 2つめは元請業者が加入について責任を持たなければならないという点です。社会保険未加入の建設業者と取引することで元請業者にも影響が及ぶことにより、当事務所も顧問先から多くの下請け業者のご紹介があり今も続いています。
社会保険未加入だと受注がとれない?
さらに、平成29年4月1日以降、国土交通省直轄工事において、社会保険未加入業者の排除措置の対象が広げられ、一次下請けのみならず二次以下を含めたすべての下請け人が社会保険に加入していないと入札ができなくなりました。このことにより末端の作業員まで社会保険に加入していないと公共工事の受注が受けられない状況になっています。
建設業の営業に社会保険労務士知識が必要
社会保険未加入問題への対応策から、建設業の見積書の中に社会保険料や雇用保険料といった法定福利費の内訳明細を表記しなければならないことになりました。これは社会保険加入を行っている建設業者であっても、その費用をどのように請求するか、悩み多きところでした。 このことにより、保険料の相違によって具体的な受注獲得にも大きな影響が及ぶことになりました。その専門家である社会保険労務士の必要性は、さらに深まったことと思います。
(3)建設業界への今後の展望 建設業界における人材不足
今や建設業に限らずすべての業界で人材不足が叫ばれていますが、建設業界はバブル崩壊やリーマンショックによって、業界から人そのものがいなくなってしまった影響がまだ続いています。 建設業は各種資格が特に必要であり、その資格を取得するためには長い経験年数が要求されるものも数多くあります。そのために、仕事を受注及び発注するための人材獲得はさらに困難になっています。 そもそも最近では、そこまでの技術と経験を持った人はおろか、頭数自体が足りないという状況にもなってきています。
外国人実習生の活用
平成27年4月から建設業界において外国人実習生の受入が可能となりました。これは2020年東京オリンピック・パラリンピックの準備が間に合わないというリスクに備えての対応です。 この外国人実習生の受け入れは、監理団体というものを通じて行わなければなりません。この監理団体の理事等に社会保険労務士が就任するケースが増えてくると思われます。
おわりに
建設業界は飲食店ほどではありませんが、昨年度1年間でも2万2千社廃業し2万社増えるといった開廃業の多い業界です。開廃業が多いということは、我々社会保険労務士として顧問解除等のリスクがあるものの、新規受注が受けやすいともいえます。 また、労働契約や労務管理といったことについての認識がまだまだあまり深くない業界なので、様々な問題が起こってからその問題に対応するといった、後ろ向きな受注もあるかもしれません。 私は残念ながら行政書士業務を行っていませんが、行政書士と兼務されている先生にとっては、建設業許可業務や経営事項審査業務等の業務も期待できるでしょう。 建設業は社会保険労務士にとって活躍の場の大きな業界であり、また必要性の高い業界といえるのではないでしょうか。
※本内容は、2017年12月発刊時点の情報となります。