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ダイバーシティの現場から…(第4回『障害者編』2)

<若林 忠旨 氏>

前号では、障害者雇用に関する法改正情報をご説明しましたが、今回は、実際に障害者雇用を進めるにあたり、具体的な内容や注意点を解説したいと思います。

1.なぜ障害者を雇用しようとするのか

(1)障害者雇用を進める動機

障害者雇用に対する企業の考え方はこの10年から15年で大きく変化しました。私が障害者雇用で就職をした頃はハローワークでの障害者雇用求人は、清掃作業や社内の郵便配布などの軽作業で、労働条件も賃金は最低賃金、労働時間は5時間未満の短時間勤務ばかりでした。民間の障害者雇用の紹介会社であっても「1年契約の有期契約」「賃金は新卒程度」が一般的でした。それでも募集があるだけマシと担当者などに言われたことをよく覚えています。そのころは「無理して障害者雇用を進めるよりも、納付金を支払うことにしている」という企業も多かったように思いますが、最近では少なくともこういった障害者雇用に対して後ろ向きな発言をすることはタブー視されるようになったと思います。それでも企業の障害者雇用は、「法定雇用率を満たす」ことが目的であることがまだまだ一般的だと言えます(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構「障害者雇用に係る事業主支援の標準的な実施方法に関する研究」のアンケート結果では約8割の企業が障害者雇用の動機として回答しています)。もちろんこういった目的だけでなく、CSRや企業イメージの向上を図るケースや、同業他社が障害者雇用を進めたことにより人手不足の解消につながったという情報を受けて動くケースなど、企業ごとに事情はさまざまなものがあります。背景にある会社の理念や社会的要請への対応など、積極的・消極的、両方の動機が存在することを理解する必要があります。 ある企業で相談を受けたときに、コンサルタントや他の社労士の方に相談すると、「障害者雇用はこうあるべき」といった考えの押し付けが強く、それが結果として現場担当者のモチベーションを一気に下げる原因となったと言われたことがあります。企業の「ヒト」の専門家である社労士としては、こういったことにならないようしっかりと肝に銘じておくべき事例だと思います。

(2)これからの障害者雇用の課題

近年、障害者雇用の就労件数が大幅に増加しています。今まで身体・知的障害者が障害者雇用の中心でしたが、精神障害者・発達障害者の就労件数も過去最大となっています。しかしながら、実雇用人数の増加は伸び悩みを見せています。これは、就労する障害者が多いのに、短期間で離職をする障害者が多いからです。就労を開始した障害者の内、約6割が1年以内に離職するというデータもあります。来年、障害者雇用率が2.0%から2.2%(3年を経過する日より前に2.3%)となります。雇用率の達成だけを考えても、今のように次々と障害者を雇入れていくということは現実的でなく、採用した障害者を長く雇用していくことを考える必要があります。

2.障害者雇用の進め方

ここからは障害者雇用を進めるときによく聞かれる募集・面接時の注意点を見ていきたいと思います。

(1)募集

障害者募集をする場合、採用したい障害者によって求職活動が違うことを意識する必要があります。例えば、身体障害者の場合、通常と同じようにハローワークや企業のホームページなどからの応募が多く、知的障害者の場合には、応募についてもサポートが必要となるため就労支援機関や特別支援学校などからの応募となります。精神障害者の場合には、身体障害者と同様ハローワークからの応募が一般的ですが、最近は就労支援機関のサポートを受けながらの応募が増えているようです。他にも公的・民間の集団面接会や人材紹介会社などもあります。企業としては、採用したい人材や無料・有料などを検討して募集を行うこととなります。なお、募集から採用にいたる過程において「差別禁止指針」の内容を厳守する必要があることに注意します。 ちなみに、私が実際に障害者雇用で利用したのは面接会で、転職には自分のスキルを活かせるように人材紹介会社を利用しました。面接会の場合、決まった日時や会場に自力またはサポートを受けながら来られることを確認することが出来るため、活用をお勧めすることが多いです。人材紹介会社の場合、採用後の年収により一定の費用が発生することとなりますが、非公開で自社にあった人材を採用したい、採用活動の負担を少なくしたいなどの要望に対応できるほか、登録している障害者の中からニーズにマッチした人を紹介してくれるメリットがあります。特に東京都の場合、社会経験がある事後障害者の募集条件は年々高くなっており、条件ニーズのマッチングをするのに適しています。

(2)選考・面接

障害者の採用をする場合、選考・面接に関する不安を持っている企業が多いようです。「面接で何を聞いていいのか分からない」「何を聞いたらいけないのか、○○を聞いたら差別に当たるのではないか」など、やはり、障害者を特別視しているように感じることがあります。障害者であれ、健常者であれ、面接は自社に合う人材かどうかを見極めるための場となることには変わりません。変に遠慮 をして後で問題とならないようにするべきです。面接のポイントは①意欲・興味、②能力、③価値観、④障害の確認となります。

①意欲・興味

まず、本人に就職の意欲があるのかを確認することが重要です。たまに、本人の就労意欲が低いのに、周りの方が就職させたい一心で面接を受けさせてくる場合があります。仮に支援者や親などが面接に同席していたとしても、必ず本人から働く意思があることを確認するようにします。これは採用後、短期間で離職してしまう原因にもなりますので、注意が必要です。また、面接のときに、就労準 備が出来ているかの確認もとります。自分の病気についてコントロールが出来ているのか、規則正しい生活リズムが出来ているのかなど、働く以上は必ず必要となる条件は厳正にチェックする必要があります。もし、条件にマッチしない場合には、支援機関の活用なども視野に入れて採用を選考する必要もあります。

②能力

障害者が「出来ること」「出来ないこと」「配慮してほしいこと」を重点に確認をしていきます。募集している仕事が出来るか、パソコンなどの機器の使用が出来るか、などの確認をすることは当然ですが、障害を持っているがゆえに「出来ないこと」があることも確認します。同じ障害を持っているといっても、できないことは人によって違います。書籍などの情報をうのみにしたり、今まで採用してきた他の障害者の状態を当てはめるのではなく、しっかりと聞き取りを行い、配慮をするようにします。障害者の中には「できないこと」「配慮をしてほしいこと」を挙げると我儘を言っていると思われてしまうのではないかと気にする方も多いようです。面接のときにはこういったことを言いやすい雰囲気作りをすることにも気を付けましょう。

③価値観

価値観とは「仕事をするうえで大切にしていること」です。仕事をする上で、何に重きを置くかを考えるのは健常者だけではありません。「一般の従業員と同じように評価をして欲しい」と思う人もいれば、「体に無理なく、生活できる程度で働きたい」と思う人もいます。個人の価値観は仕事の意欲ややりがいにも関係するので、しっかりとヒアリングすることをお勧めします。

④障害の確認

障害の状態について興味本位で尋ねることは厳禁ですが、仕事をする上で必要な条件であれば確認する必要があります。自分の障害を気軽に話す方もいれば、話をしたくない方、うまく説明できないという方もいます。私も今ではほとんど気にならなくなりましたが、慢性腎不全のため障害者手帳を取得するよう医者から告げられた時の何とも言えない気持ちは今でも鮮明に覚えています。「障害者であること」「中途障害者になること」を一生の問題と感じて悩み、生きづらさを感じ、抱えている方も多くいます。障害ということはそれほどセンシティブな問題であることを念頭に置いてヒアリングを進めていただきたいと思います。 とはいっても、採用後の通院や服薬、治療の内容については、会社の使用者責任や安全配慮義務にも関係する問題なので、必要な点をしっかりと確認をするようにしましょう。 中小零細企業の障害者雇用はいまだ法定雇用率未達成の問題が重点となりますが、雇用を進めている企業にとっては、採用より採用後の定着支援に悩んでいるケースが増えてきているように思います。障害者雇用に長く取り組んでいる企業でも、応募してきた障害者にヒアリングや説明をきちんと行っていないことも多く、そういったことも短期的な離職に繋がっているようです。法的な部分だけでなく、その他のさまざまな人間関係的な要因などについてアドバイスを行うことも社労士が力を発揮できる部分になるのではないでしょうか。

※本内容は、2017年12月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人 東京中央エルファロ共同代表
特定社会保険労務士 若林 忠旨 氏

埼玉県越谷市出身。東証一部上場の金融機関にて営業企画、法人営業に従事。その後、法務部門にて関連会社の立ち上げや企業法務を経験するも、慢性腎不全により退職。人工透析を開始後、障害者雇用にて信販会社に就職。その後、障害者転職支援会社を通じて、損害保険会社の監査部に転職。財務、人事労務、システム監査等を経験する。平成24年社労士4名にて社労士法人を設立。介護事業所のサポートを中心に活動するとともに、自身の経験を生かし、障害年金請求業務や障害者雇用を進める企業のサポート業務、就労移行支援事業の立ち上げ支援などに尽力している。

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