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ダイバーシティの現場から…(第2回『外国人労働者編』2)
<本間 邦弘 氏>
前号では、外国人労働者の採用に関する基本事項をご説明しました。今回は、外国人労働者採用に関する実務に関する事項について、具体的な内容や注意点を解説したいと思います。
1.留学(就学)生として働く場合の例(採用前から採用後の例)
(1)採用まで
①採用の決定
ある業界では、各社で配達業務を担う人材不足を補うために、ベトナムなどアジア地域を中心に、日本語学校生や大学生などを対象として、日本へ留学(就学)する学生について、「奨学生」として授業料などを補助し、従業員として就労してもらうことを行っています。ある会社の本社では、実際にその国へ担当者が出向き、奨学生として希望する方々と面接を行い、奨学生となることが決定した場合に必要な手続きをとり、就業させるということを実施しています。
②在留資格の取得と就労の許可
奨学生になることが決定すると、まずその外国人の留学としての在留資格を得る手続きに入ります。在留資格が取得できると、さらに「資格外活動許可」を得る手続きを行い、許可が得られれば日本で就労することが可能になります。
③日本への入国やその後
在留資格等により日本に入国し、学校への入学の手続きや住居の決定など、生活のための準備が行われます。留学に関連して必要となる、入国に関する費用や住居、学校の授業料などさまざま費用については、受け入れ先の事業主がどこまで負担するかを決定し、基本的な契約を締結します(後記を参照)。
(2)採用やその後
①労働条件の通知や提出書類
採用に際しては、労働条件通知書(必要な場合には、出身国の言語の書類を用意)を交付し、身元保証書や、寮などに住む場合には誓約書などの提出を受けます。在留カードの写しなど個人情報の提出を受ける際には、利用目的を明示し同意のサインを受けることも重要です。
②不法就労に当たるケースと対応など
「留学」で資格外活動許可を得て就労する場合では、1日8時間、週28時間(夏休みなど長期休暇時は週40時間)以内という労働時間の制限があり、風俗営業など禁止された業務があります。定められた時間外や禁止された業務での就労は不法就労となるため注意が必要です。また、雇い入れ後も、不法就労に該当しないか、他社でアルバイトをしていないかなども含めて定期的に確認することも重要と考えます。
③実際のトラブル例 この業界のA社で発生したトラブルです。A社は1階が事務所であり、2階と3階を社員寮として、居住させています。ある日、会社に封書が届き社長が受け取りました。社長が封書を見ると、2階に住む中国人奨学生(日本語学校に通い就労)のBさん宛のものでした。しかし、封書の宛名の横に「マイナンバー報告のお願い」と記載されており、差出人はあるファミリーレストランとなっていました。社長はBさんを呼び事情を聞いたところ、会社に内緒でアルバイトをしていたことを認めました。A社での勤務は、週28時間の法定ぎりぎりであり、他社での勤務は時間制限を超えた不法就労になります。社長は日本語学校に相談し、Bさんは退学して本国へ帰国することになりました。
2.社員として採用する場合の例
(1)採用まで
①採用の決定
C社はベトナムに工場を作り、アジアの拠点として海外への拡大を模索しています。ベトナム工場と日本の会社とのパイプ役(将来の幹部候補)として、ベトナム人留学生で日本の有名国立大学で学ぶDさんを、システムエンジニアとして採用することにしました。
②就労資格の取得と就労の許可
Dさんは、無事に卒業に必要な単位を取得し、C社はDさんに採用決定通知書を交付しました。Dさんは、資格外活動許可を得て従事していたコンビニの夜勤アルバイトを退職し、C社で週3日間24時間、研修を兼ねてアルバイトとして雇用保険にも加入し、勤務することになりました。
(2)採用やその後 就労資格の取得と本採用、その後
無事に卒業したDさんは、在留資格を就労に切り替える手続きを行い、2か月後に就労資格が得られたため、本採用(アルバイト期間で試用期間を完了)となりました。Dさんの就職に際して、C社ではベトナムに帰国あるいは日本へ入国(両親が日本で観光し、会社を訪ねることを含む)する費用を全額負担し、会社の寮をDさんの住居として提供する事にしました。 さらに、採用に際して雇用契約書の締結や身元保証書や誓約書(他社でのアルバイト禁止や、その他を記載)などの必要な書類の提出(個人情報の提出については前述の通り)を受け、また健康診断を実施しました。雇い入れ後は、定期的に不法就労に該当することがないかについても確認しています。
3.外国人労働者への付加的な給付と注意点
(1)サインオンボーナス
使用者が労働者に対し、雇用開始時に特別に支払う金銭をサインオンボーナス(サイニングボーナス、契約締結金等とも呼ばれています)といいます。これは、優秀な労働者の就業を確保するために、欧米の会社や外資系企業のオファーレター(使用者が労働者に対し採用の申込みを通知し、給与などの労働条件を提示する書面)でよく見られるもので、付加的な条件と言えます。サインオンボーナスの支給に際して、労働者が一定期間内に退職した場合には返還すると定める場合がありますが、強制労働を禁止する労働基準法第5条、および損害賠償の予定を禁止する同法第16条に反するとして無効とされる場合もあり、注意が必要です。
(2)留学や研修のための費用の補助など
使用者が労働者に対して、日本での留学(日本語学校や大学などの授業料等)や研修のための費用を貸与し、留学中や研修中、またはその後一定期間継続して就業した場合には、その返還を免除することで合意することがあります。これについては、本来本人が費用を負担するべき自主的な留学または研修について、使用者が費用を貸与するという性質のものとされていますが、合意があったとしても、使用者は労働者に対して費用の返還を請求できるか否か問題となることがあります。多くの場合には問題がないとされますが、賃金に比べて返還金額があまりに過大であるなど、労働関係の継続を強要すると判断された場合には、労働基準法第16条に反すると指摘され無効になるケースもありますので、注意が必要です。
(3)引越費用や家賃などの負担・補助
優秀な人材の確保を目的として、採用して日本で就業する外国人労働者が、費用の心配をすることのないように、現在の居住地から日本までの引越費用を負担する場合があります。このほかに、特に上級管理職など高待遇が期待される人材の場合には、家賃や光熱費、子どものインターナショナルスクールの学費などについても、使用者が全額または一部を負担する場合があり、この点は外国人労働者から求められることも多くあります。 実際に家賃補助50万円を約束して、その維持ができなくなったために、外国人労働者が退職してしまった事例もありました。サインオンボーナスや引っ越し費用、家賃補助、ホームリーブなどは、会社の規模や資金力など実情に応じた対応が考えられます。
(4)ホームリーブ・旅費
ホームリーブとは、本国以外で勤務する労働者に対し、本国に帰国するために認められる休暇をいいます。ホームリーブが付与される場合に、本人のみならず家族の旅費を使用者が負担することもあります。これらは法的な義務はありませんが、優秀な外国人労働者にとって、より魅力的な労働条件とするため、使用者が法定の年次有給休暇に加えホームリーブを付与することや、その際の旅費を負担することを検討することもあるようです。なお、日本国内において勤務する外国人に対し、使用者が休暇帰国のための旅費を負担する場合、一定の要件を満たしていれば、税務上当該旅費をその外国人の給与所得とせず、所得税の課税対象外として処理することが認められる場合があります。 外国人労働者の活用は、人手不足の解消やグローバル化への対応などメリットも多くありますが、法的な対応を適切に行うことが重要です。我われ社労士は、事業主や会社だけでなく、労働者を守る存在としても、その力を発揮することが求められています。
※本内容は、2017年8月発刊時点の情報となります。