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法令改正最前線(第32回『民法改正と賃金請求権の時効期間』)

<滝 則茂 氏>

今回は、民法改正との関係でクローズアップされている「労働基準法上の請求権の時効期間」をテーマとして取りあげることとします。

1.民法改正による時効期間の変更

6月2日に公布された改正民法では、債権の消滅時効期間につき、「権利を行使することができる時から10年」とする従来の原則基準(民法166条1項、167条1項)に加え、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」という新たな基準(改正後の民法166条1項1号)が追加されました(要は、いずれか早く到来した方を適用するという趣旨です)。また、従来は、1~3年の短期消滅時効が各種の領域で認められていましたが(民法170条~174条)、この特例はすべて廃止されています。その結果、従来、民法上は1年とされていた「使用人の給料に係る債権」(民法174条1号)の時効期間も、民法上は他の債権と同様の期間になります。

2.労働基準法の規定との整合性

労働基準法は、従来の1年の短期消滅時効では労働者にとって酷であるとの観点から、賃金請求権の時効期間を2年と定めています(労働基準法115条)。ところが、今回の民法改正で、1年の短期消滅時効の制度が廃止されてしまうことになります。その結果、労働基準法上の時効期間の方が、民法上のそれよりも短くなってしまうのです。このような事態は、民法(私法の一般法)と労働法(労働者保護の観点から民法を修正する特別法)との整合性を害するものと言わざるをえません。

3.労働政策審議会の場で検討

上記の問題点については、かねてより、労働法学者や弁護士などによって指摘されてきましたが、法務省がリードする民法改正のプロセスの中では、等閑視されてきました。おそらく、「厚生労働省で考えるべきテーマなので、法務省としては関知しない」ということだったのでしょう。 民法改正に係る国会審議(参議院法務委員会)の中で、野党議員より、この問題点につき指摘がなされ、厚生労働省は、今後、消滅時効の在り方について検討を行う旨の答弁を行いました。そして、7月12日から、労働政策審議会労働条件分科会において、審議が始まっています。

4.今後の見通し

筋論からいけば、「労働基準法上の2年の時効期間を民法を踏まえ5年に延長すべきだ」とする考え方(労働側の主張)には、説得力があります。しかし、経営側から見ると、たとえば、未払い残業代の支払いといった問題に遭遇した場合に、今までよりも大幅なダメージを受けることになりかねないため、すんなりと民法改正に沿った労働基準法改正を受け入れることはできないと思われます。民法改正を踏まえるという前提は維持した上で、経営側に何らかの配慮が示されるのかもしれません。 なお、本テーマに関する労働基準法改正は、「働き方改革」関連の労働基準法改正とは、切り離して実施されることになりそうです。「働き方改革」関連法案(2019年4月1日施行予定の労働基準法、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法等の一括改正)については、既に労働政策審議会での審議も終えており、秋の臨時国会に法案が提出される予定になっています。 これに対し、労働基準法の時効期間見直しについては、労働政策審議会での審議が始まったばかりであり、「働き方改革」関連法案が一段落した後で、国会に提出されることになりそうです。改正民法の施行は、2020年になると思われますので、2019年の国会で審議される可能性が高いといえるでしょう。

 

※本内容は、2017年8月発刊時点の情報となります。

社会保険労務士法人LEC代表社員
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事。東京都福祉サービス第三者評価評価者。
名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2007年特定社会保険労務士付記。東京リーガルマインド主任研究員として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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