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業種特化社労士の視点から(第4回『介護事業編』)

<山田 芳子 氏>

介護業界の現場を見てきて

社会保険労務士として開業して、平成28年8月で15年を迎えました。 介護特化社労士としてのイメージがついたのは、平成24年3月に共著で書かせていただいた「図解でわかる介護保険・介護報酬の改正ガイド」がはじまりかと思います。その少し前から「介護甲子園」などの運営委員ボランティア参画をきっかけに、介護事業の経営者、介護事業の経営にも携わっている業界特化型の士業の方、介護事業のコンサルタントをしている方と情報交換させていただく機会が増えていました。現在は、介護事業者の経営者・人事労務担当者向けの雑誌の執筆などの依頼や各種業界団体・地方銀行・法人研修などで、研修講師として呼ばれる機会も多くなっています。ここ2~3年の情報交換の話題は、「介護業界の人事のトレンドは変わり、恒久的に人材不足の時代が来た」というものです。 近年は二極化の時代です。求人がなくても、働きたい求職者が履歴書をもって列をなす介護事業者と、なかなか人材が集まらない介護事業者と両極端にわかれています。ハローワークや求人情報誌に求人を出しても、人が集まらなくなってきました。人材を集めているところも規模拡大をしているので、いずれも人材不足気味である状況に変わりがない点が大きな特徴だと感じています。また近年、虐待などの報道もあり、大量離職や必要な人員が確保できない事業者も増えてきました。虐待などの組織的問題を抱えている場合は、拡大路線を小休止して、内部統制に力を入れていることも少なくないと聞きます。 それに伴い、近年は、「いかに人材を確保し、定着してもらうか?」というご相談が多くなりました。450時間の研修が義務化されたこともあり、介護福祉士の受験者が半減するなど、現場で中核的役割を担う介護職員の質の向上と人員確保のバランスが難しい時代です。介護報酬も、基本報酬だけではなく、介護職員処遇改善加算などを活用して、「少しでも職員に多く給与を支払いたい」というご相談がより多くなってきました。また、介護事業者としての指定要件や人員基準などの詳細、業界でトレンドとなっている情報を得たいというお客様からのご要望も増えてきたように思います。

介護業界をとりまく動き

一方、国の施策も大きく転換を始めています。 「措置から契約へ」「利用者本位」などの考え方をベースに、平成12年に施行された介護保険法は、平成24年には労働基準法関連違反による指定取消の要件が追加されました。団塊の世代が後期高齢者となる「2025年」に向けて、まず介護事業への多様な参画者を増やすことを優先してきた考え方から、介護職員の人材確保のため、利用者へのサービスやそれを担保するための介護職員の労働条件等についても厳しく規制するようになってきました。 また、現在、介護事業における注目ポイントは、「混合介護」「介護職員のキャリアパス」「自立支援介護」です。介護業界で仕事をする面白さは、人材の確保・育成に関する課題や、国の施策の動きといった点において、その最先端に直面するところです。次に保育事業、その他一般企業へと波及します。「職場定着支援助成金」の適用拡大や、介護ロボット・ICT活用を行う「働き方改革」については、少なくとも国の施策、前述の流れで動いていると考えています。 介護事業に関する国の施策は、大規模効率化の方向で、続々と大手企業が参入してきています。医療における診療報酬と違い、介護事業における介護報酬は、自費・保険外サービスなど「混合介護」がベースで構築されています。最近は、コンビニが介護事業を行う、介護事業者が理容室と併設で訪問理容も行うなど、様々な介護保険と関わりのないサービスとコラボレーションして、介護報酬以外の収益を稼ぐことが求められる時代となりました。さらに、人材不足が顕著な昨今、介護の仕事が「魅力ある仕事」だと働く人が感じられるように、キャリアと収入の「見える化」を図るため、介護職員のキャリアパス構築には大きな期待が集まっています。 「自立支援介護」とは、「科学的に裏付けられた介護」の普及と「介護ロボット・ICTの活用」などをベースとした、いわゆる「要介護状態がよくなる介護」という概念です。現在、介護保険法の改正案が国会に上程されていますが、平成30年度の介護保険法改正・介護報酬改定において、介護ロボット・ICTの活用による介護報酬の加算と人員基準・設備基準の緩和が検討されています。すなわち、「科学的に裏付けられた介護」等によって要介護度が下がる場合に、介護報酬等で評価を行う仕組みが検討されているのです。このような「介護ロボット・ICTの活用」については、「働き方改革」の一環として、人材不足の昨今、少人数でも質を下げずに、今まで通りの安心安全な介護サービスを提供できる仕組みの構築に期待が集まっています。 安倍首相は、平成28年11月10日に開催された未来投資会議において、「介護現場にいる皆さんが自分たちの努力や、あるいは能力を生かしていくことによって、要介護度が下がっていく達成感を共に味わうことができるということは『専門職としての働きがい』につながっていくということではないか、とこのように思います」とコメントをしているなど、「働きがい」という観点からも「自立支援介護」に関する国の期待は非常に大きなものとなっています。 「魅力ある職場づくり」の現場を見る限りにおいても、「自立支援介護」は、やりがいを自然に生む可能性と「働き方改革」の最先端を行く可能性の両方を秘めていると感じています。その流れに関わることは、今後の人事労務のあり方を占う上でも貴重な経験になると考えています。また、今後社労士業界にも同じような波が来る兆しもあり、自分の仕事のあり方を占う意味でも、介護特化で仕事をしていくことは、とても面白い仕事だと考えております。

介護業界に関わるようになったきっかけと今後の展開

27歳のとき、派遣会社で1年だけ経験を積んだだけでの開業、正直どう営業してよいかもわからない状態でした。そこで最初にご縁をいただいたのが、東京都の事業として実施された福祉NPOの経営支援ボランティアの仕事で、2~3年携わりました。その後、東京都福祉サービス第三者評価の評価者として、福祉関係全般の現場の経営・サービスに関するアセスメントを行う仕事を14年ほど続けた経験で、福祉サービスも含めた全般の現場を見る視点を学べたことが、介護特化でやろうと決めた大きなきっかけです。 当時は、「職住近接で仕事がしたい」との思いから東京の郊外(多摩地区)での開業でした。お客様も多摩地区のお客様がほとんどで、その後、不思議と税理士からご紹介いただく案件が医療機関・介護事業所であることが多くなり、介護特化でやるという選択をするまでに、あまり多くの時間を要しませんでした。当時、介護事業は、一般の企業と比較して、職員の出入りが激しく、同規模でも手続量が多いなどの事情があってか、あまり特化してやろうという同業者がいない業界でしたので、あえて参入した次第ですが、平成24年あたりから、参入したいという同業者の方からのご相談も多くなったように思います。 以前は、事務所主催で介護事業者様向けに実地指導や営業に関するセミナーを行っていましたが、参加者が現場の職員になるため、あまり大きな成果はありませんでした。現在は、ホームページ等からのご案内とセミナー・執筆活動をベースに営業活動を進めています。 今思えば幸運なことに、開業間もない時期から、東京都福祉サービス第三者評価の評価者などをさせていただき、サービスも含めた福祉の現場から職員のモチベーション・能力開発・魅力ある職場づくりについて、アセスメントをする機会が多くありました。それに加えて、「図解でわかる介護保険の改正ポイント」を執筆したことや、各所で開催される介護現場の視察ツアーなどにも同行させていただき、「魅力ある職場づくり」について研究をしていたことが、今に活きています。そして、地域包括ケアシステムが平成24年あたりから本格的に示されている今、地域にどのように参画していくかの支援なども行うようになりました。現在は、介護事業の立ち上げ支援なども行い、他士業・介護経営コンサルタントの方・求人情報誌・介護事業所の建設・設備等にかかわる会社など、様々な形で介護事業者を支援なさっている方々にご協力をいただきながら、魅力ある職場づくりやリーダー育成から経営支援までできる方向性を模索していきたいと考えています。

※本内容は、2017年4月発刊時点の情報となります。

あいぼーでんワークスタイルイノベーション代表
特定社会保険労務士 山田 芳子 氏

株式会社あいそれいゆ代表取締役。アンガーマネジメントシニアファシリテーター™。
1973年生まれ。法政大学法学部法律学科卒業。2001年、社会保険労務士事務所を開業。「事業と職員の人生を尊重し、ともに成長する組織を創る」を経営理念に、医療機関・福祉事業所を中心とした顧客に地域密着型で対応するとともに、執筆・アンガーマネジメントなどのセミナー等も行っている。

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