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法令改正最前線(第78回 『労災保険制度の在り方に関する研究会』)

<滝 則茂 氏>

この研究会は、労災保険制度に関する現代的な課題を検討するものです。当然、将来の労災保険法の改正を見据えた研究会とみることができます。厚生労働省労働基準局が所管しており、9名の学識経験者(全員が大学教員)によって組織されています。

1 本研究会の趣旨・目的
昭和22年に制定された労災保険制度においては、近年、二次健康診断給付の創設(平成12年改正)、複数就業者の増加等を踏まえた通勤災害保護制度の拡充(平成17年改正)、船員保険の被保険者を適用対象とする改正(平成19年改正)、複数業務要因災害に関する保険給付の創設(令和2年改正)等の改正を重ねてきました。その一方で、女性の労働参加の進展、更なる就労形態の多様化等、制度を取り巻く環境は常に変化を続けています。
そこで、このような状況を踏まえ、労災保険制度の現代的課題を包括的に検討すべく、「労災保険の在り方に関する研究会」(以下、「本研究会」とします。)を設置しました。

2 本研究会のこれまでの動向と今後の予定
本研究会は、昨年の12月24日からスタートし、2月21日までに3回開催されています。そのうち、最初の2回については、既に議事録が公表されています。また、委員から出された主な意見についても整理されており、インターネットで閲覧できる状態になっています。   
今後も、月1回程度のペースで議論を行い、6月から7月には中間報告が出される見込みとなっています。この中間報告が出た段階で、今後の法改正に向けての方向性がある程度見 えてくるのではないかと思われます。

3 これまでの議論で出てきている委員の意見の例
現在公表されている意見をみると、「遺族補償年金」と「消滅時効」関係のものが中心になっているようです。本稿においては、このうち遺族補償年金に関し、委員の意見の例をいくつか抜粋して紹介します。このテーマに関しては、4つの論点に整理した上で、委員の発言の概要が公表されています。

〈論点①〉遺族補償年金の趣旨・目的
・損害賠償との関係も踏まえるべき。労災保険は、損害賠償における過失の立証の困難さを考慮して、それを補完するために無過失責任を採用した側面がある。

〈論点②〉給付の要件について
・昭和40年当時には女性は独力では生計維持できないと考えられたのであろうが、今のデータを見れば、女性は独力で生計維持できるように思われ、性別で差を設ける必要性は失われている。

〈論点③〉給付水準について
・遺族補償がカバーしようとしていたのは、具体的な被扶養関係ではなく、永久的全部労働不能による損失と考えられていた。素直に考えれば長期給付が想定されるが、一企業が行うものなので一時金にしたり金額の設定がなされたりしている。労災保険法ではそういう考慮は必要ないこともあり、遺族厚生年金とは違って長期給付を検討すべき。

〈論点④〉労働基準法との関係について
・労災保険法は労基法の災害補償責任をもとにしており、労災保険法を労働基準法よりも狭めるとの方針はないはず。労働基準法及び労基則において、配偶者について、配偶者であること以外には何ら要件がない。遺族の支給要件に関して、夫婦に関して夫婦である以外の何らかの要件を設けると労働基準法の要件よりは狭くなってしまう。

社会保険労務士法人LEC
特定社会保険労務士 滝 則茂 氏

中小企業福祉事業団幹事 名古屋市生まれ。中央大学法学部法律学科卒業。1989年社会保険労務士登録。2006年特定社会保険労務士付記。

長年にわたり、LEC東京リーガルマインド専任講師として、企業研修、職業訓練、資格取得講座などの企画、教材開発、講義を担当。2003年4月より、社会保険労務士法人LECにて、労務相談、就業規則関連業務などに従事する一方、社労士向けセミナーの講師として活躍中。

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