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法令改正最前線(第67回 『労働政策審議会 労働政策基本部会報告書』)
<滝 則茂 氏>
今回は、4月26日に厚生労働省から公表された「労働政策審議会労働政策基本部会報告書」を取り上げることとします。
1.本報告書が登場した経緯
労働政策審議会の労働政策基本部会(以下、「基本部会」とします。)においては、令和4年2月から令和5年3月まで、「加速する社会・経済の変化の中での労働政策の課題」をテーマに9回にわたる議論が行われ、今回、その成果を取りまとめた報告書を公表するに至りました。
この基本部会は、既存の分科会や部会を横断するようなテーマを議論するもので、直近の法改正について具体的な検討を行う機関ではありません。しかしながら、基本部会は今後の労働政策に関し、中長期的な観点からの検討・提言がなされる貴重な場であり、その議論の内容からは、今後の制度改革の方向性をつかむことができます。
2.働き方の現状と課題
本報告書では、「社会・経済の現状と課題」を踏まえ、「働き方の現状と課題」について、分析が行われています。ここでは、労務管理実務との関わりが強い、「人事制度」(ジョブ型人事)についての分析について、その骨子を紹介します。
・「ジョブ型雇用」は狭義では職務が雇用契約に明記・限定される雇用形態であり、欧米でブルーカラー中心に採用されてきたものが、近年、日本ではホワイトカラー中心に「職務と処遇の明確化」という観点から導入の動きがある。
・ジョブローテーションによる若手育成が困難になるなどの留意点があり、多様な人材の力の発揮と人材育成を阻害しないよう、企業内での労使の対話が特に重要である。また、ジョブ型人事の導入には、次のような配慮も必要である。
①ポストに見合った人材を広く社内外から求める
②キャリアアップに伴う再教育支援の仕組み
③労働者一人ひとりのキャリア志向に対応する
④職務以外の情報共有や組織貢献意欲を促す仕組み
3.今後の労働政策の方向性について
ここでは、「働き方の現状と課題」を踏まえ、「企業に求められる対応」、「労働者に求められる対応」、「労働政策において今後検討すべき対応」、「社会全体に求められる対応」について、その方向性が提示されています。本稿においては、今後の法改正の方向性を示す「労働政策において今後検討すべき対応」の骨子を紹介します。いずれも、基本的には、近年の法改正の方向性を踏襲し、さらに推し進めるものとみることができます。
・多様な人材が能力を発揮できるよう、「女性や高齢者などの働き方に中立的な税制・社会保障制度の構築」、「雇用によらない働き方など様々な働き方の人を重層的なセーフティネットに組み入れていくこと」が課題である。
・自発的に労働移動を行う労働者の転職の参考となるよう、以下のような方法により、転職しやすい環境整備(労働市場の基盤整備)を進めていくべきである。
①労働市場の見える化(職場情報・職業情報)
②異業種間でも業務の親和性のある仕事の事例の積極的周知広報
③ハローワークサービスのデジタル化による、オンラインサービスやキャリアコンサルティング機能の充実など在職者向け支援の強化
・従来の「安全・安心」重視の対応に加え、「労働市場のセーフティネットを整備しつつ、労働者のスキルアップ・向上を目指す」ことを重視していくべきである。