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業種特化社労士の視点から(第40回『介護業界編』)
<林 哲也 氏>
2000年施行の介護保険制度は、市町村の措置制度から、広く民間事業者も参入した事業となりました。今日、介護事業の維持発展は、進展する少子高齢化をふまえて、地域の人々の命と暮らしを守るために不可欠です。良好な労使関係を育てるために、社労士の役割はかつてなく大きくなってきました。
●介護事業の歴史的の変遷
①介護が、「救貧」的事業から「権利」へ
2000年の法施行当初は、「ヘルパーさんの車は、人目のつかないところに駐車して」等と言われることが多くありました。そのような風潮となっていた背景に、介護の歴史があります。
介護事業の「制度」の歴史は、1880年代(明治10年代)の「養老院」という名で誕生した日本の老人ホームにその起源があります。
戦前の老人ホームに関わった先人達は「救貧法」のもと、キリスト教や仏教あるいは人間愛の哲学に支えられて家族を犠牲にして高齢者に尽くす慈善事業で取り組んできたものが中心でした。
戦後も、「老人福祉法」が施行されるまでの間は、「生活保護法」による生活保護施設として、衣食住を中心としたサービスが続けられていました。
老人福祉法は、1963(昭和38)年に生活保護法の中の独居、病弱や障害等による要援護高齢者に関する規定をほかとは独立させて制定されました。
また、「生活保護法」の中から老人施設を抜き出し、新たに“特別養護老人ホーム”が創設されました。1970(昭和45)年からは、全国的に“特別養護老人ホーム”施設量産時代が始まりました。
1980年代に入ると、原則無料ではじめられた老人福祉サービスに費用徴収制度が導入され、所得に応じた費用負担が始まりました。この時代の特徴としては、利用者が常に“低所得者”であったため、世間一般では「救貧」の意識が残っており、更に「措置」「収容」という行政用語からくる心理的抵抗も少なからず残っていました。
介護保険が始まって20余年を経た今日では、介護保険料を支払っているのだから権利としてサービスを受けるという考え方が確立しました。
②「労働者性」確立は、介護保険施行後
国の定めとして、介護職員を労働者として雇用する仕組みが始まったのは、2000年の介護保険法の施行が契機でした。
介護保険法の施行前は、職員は「委任」や「委託」で働く契約が多く散見されました。それが、介護保険法施行により「労働者」と明確にされたのが特徴です。
経緯が垣間見える二つの通達を紹介します。
【通達①】
1996年(平成8年)に、厚生労働省は「非常勤ホームヘルパーの就労条件の確保について」(平成8年5月8日)(老計第80号)を通知しました。
その内容は、次のようなものでした。
「市町村は、ホームヘルプサービス事業を委託している場合には、必要に応じて委託先団体に所属するホームヘルパーの就労条件について調査を行い、その実態を把握する必要がある」「いわゆる登録ヘルパーについて、所属先団体との間に雇用関係がないとして一律に労働法規を適用していない例が見受けられるが、登録ヘルパーであっても、その就労の実態からみて、所属先団体との間に雇用関係が認められる場合には、労働者保護法令が当然に適用されるものであること」
【通達②】
2004年に、労働基準局長より「訪問介護労働者の法定労働条件の確保について」(平成16年8月7日 基発第0827001号)が通知されました。
「この訪問介護の業務に従事する者の中には、委託、委任等の呼称が用いられている場合もあるが、労働者に該当するかどうかについては、使用者の指揮監督等の実態に即し総合的に判断する」「なお、介護保険法に基づく訪問介護の業務に従事する訪問介護員等については、一般的には使用者の指揮監督の下にあること等から、労働基準法(以下「法」という)第9条の労働者に該当するものと考えられる」
●“質の高い仕事ができる人(組織)”の法則
介護サービスは、介護職員によって成り立っているのが現実です。
その、介護の仕事は「感情労働」といわれています。利用者と家族との心のかかわり合いに生きがいを感じる一方で、理不尽な状況でも感情をコントロールし、相手の感情と付き合う仕事です。
また、介護は、利用者との最期の別れがつきものです。介護士としての経験が浅い頃は、感情の切り替えがうまくいかず、ストレスになる傾向があります。
人と人との関わりが仕事であることから、就業規則で押さえつける労使関係ではなく、質の高い仕事ができる「人を育てる」、質の高い仕事のできる「集団を育てる」ことが大切な事業です。
一般的な傾向として「キャリアパス制度」は、専門性を高めることに重きが置かれます。
しかしながら、これだけでは仕事ができる人を育てることはできません。質の高い仕事をできるようにするためには、人と人との結びつきを深めるコミュニケーションが大切だと言えます。
●介護事業所の働き方の特徴
介護事業も複合的なサービスの集合体ですから、それに応じて働き方が多様です。
1) 利用者宅から利用者を送迎するサービス
2) 利用者宅に直行直帰の就労があるサービスそして、複数の利用者宅を移動(自由利用の時間無く移動)するサービスの場合もある
3) 夜間、深夜、早朝の業務のあるサービス
4) 夜間勤務のあるサービス
これらのサービスごとに就業規則のあり方も多様な組合せとなります。詳しくは、自著「介護事業所[職員・登録ヘルパー]のための就業規則」(日本法令刊)をご参照ください。
●介護事業所の就業規則の特徴
前述の通り、人と人との結びつきのあり方を示した就業規則を職場のルールとして定め、組織運営の基本に据えるべきです。これは介護事業だけに限定されることではありませんが、人と人とが協業する介護の現場では、特に重要です。
①事業の「許認可」で就業規則を備えている
介護事業は、許認可を受けなければ始められません。その許認可の申請の際に、就業規則の作成をしていることの確認があります。他の事業とは違って介護事業所では、就業規則が、“それなり”に作成されている点は、大きな違いだと言えます。
②人員基準があること
「介護報酬」を得るには、各サービスで定められる「人員基準」を守ることが絶対不可欠なことです。人員が不足する場合は、サービスの提供自体が成立しないことになります。他の事業のように「人員不足でも残業などで仕事を仕上げる」ことは絶対に許されないことなのです。これが介護事業所において、膨大な残業の事例をあまり見かけない理由です。
③「処遇改善加算」申請でキャリアパス制度必要
「処遇改善加算」を得るためには、毎年、評価制度、給与表、労働時間の改善・向上などに取り組むことが必要な課題となっています。その課題に取り組むなかで、「就業規則」の改訂が必要となります。
④労働時間厳守は、利用者の命と暮らしに直結
就業規則と雇用契約で定めた勤務シフトを守ることは、まさに命と暮らしに直結します。
それだけに、決められた労働時間は厳格に守られることが求められます。
●介護事業所への営業アプローチの「極意」
①業界の口コミを活用しよう
介護事業所は、地域の複数の事業所と連携して利用者へのサービスを提供しています。橫のつながりが幅広いことが特徴です。顧客の満足度を高めることによって、紹介口コミをお願いしましょう。
②介護事業所を過度に「恐れない」こと
介護事業者の社労士への期待は「人事労務の専門家」です。そのため、介護業界の専門用語が分からなくても大丈夫です。
確かに、介護業界は業界用語があります。また地域的な表現の違いも結構あります。しかしながら、「この人は業界のことを何も知らない」ということで見下してくるような経営者とは、そもそも契約する必要はありません。
大切なのは、業界用語など分からないことは、率直に教えてもらう姿勢であり、それが結果として事業者の好感度を高めることにもつながります。