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業種特化社労士の視点から(第2回『コンビニ業編』)
<安 紗弥香 氏>
はじめに
全国には50,000店を超えるコンビニが存在し、その存在は多くの人の知る所となっています。しかし、それらのコンビニがどのように運営されているかについて知っている人は少ないのではないでしょうか。 コンビニ業界の現状や本部・加盟店が抱えている問題、また、それを社会保険労務士(以下、「社労士」)としてどうアプローチし、あるいはアドバイスしていくことができるのか。本部勤務通算7年、4,000名を超える店舗のオーナー、店長、スタッフの研修を通じて見えてきた、コンビニ業界の現状と未来、社労士としての関わり方を見て行きます。
なぜコンビニ業界に深く関わっているのか
私は、ディズニーで接客・小売業を経験した後、コンビニ本部に転職、1,000を超える加盟店の研修に携わ りました。ディズニーといえば、高いホスピタリティの理念から、注目される業界の一つです。対してコンビニは…というと、仕組みは常に最先端、百貨店に代わり小売業トップの地位を確立、メディアなどでも注目され続けている業界ですが、その業界に身を置く「人」にフォーカスされることはあまりありません。 実際に加盟者にお会いすると「コンビニの仕事が好きで始めた」という方も多いのですが、実情は厳しいものがあります。例えば、オーナー・店長の経営意識や労務管理意識の差、長時間労働、人時生産性のレベル差、労働保険・社会保険未加入のリスク、職場コミュニケーションの課題などが見え隠れします。私はコンビニの業務改善と、一つの事業所としての職場環境改善の観点から、外部の人間としてサポートできる手法を模索し続けています。一所懸命にお客さまと接し、スタッフを育成し、資金のやりくりをしているオーナーやスタッフの皆さんが今以上にやりがいを感じられること、また、コンビニに多くの人が集まるコミュニティの場になっていくことが、私の目指す姿です。
コンビニ業界の現状・特徴
●コンビニのほとんどはフランチャイズ契約
コンビニ業界では、フランチャイズの仕組みが最も多く採用されています(図1)。
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会によると、フランチャイズとは『事業者(「フランチャイザー」と呼ぶ)が他の事業者(「フランチャイジー」と呼ぶ)との間に契約を結び、自己の商標、サービスマーク、トレード・ネーム、その他の営業の象徴となる標識、および経営のノウハウを用いて、同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え、一方、フランチャイジーはその見返りとして一定の対価を支払い、事業に必要な資金を投下してフランチャイザーの指導および援助のもとに事業を行う両者の継続的関係』であると定義づけています。このうち「一定の対価」は、店舗の売上総利益(売上から仕入れを差し引いたもの。粗利益ともいう)に対して、加盟店と本部で利益を分ける「粗利分配方式」が大手チェーンでは最も多く採用されており、本部に支払うものを、一般的にロイヤリティー、あるいはフィーとも呼びます(以下「ロイヤリィー」)。
●コンビニの契約タイプ
そのロイヤリティー率に大きく関わるのが、加盟店の契約タイプです。契約タイプは大きく分けて2つあります。一つは、加盟者が土地・建物を用意し、レジなどの機器を本部が用意するタイプ、もう一つは、本部が土地・建物も用意するタイプです。中間タイプを設けているチェーンもありますが、前者のほうが、後者に比べて当然、開業時に多くの資金が必要になります。その分、先述のロイヤリティーが、後者よりも優遇されています。コンビニ黎明期は酒屋からの転換など前者のオーナーが多かったのが、会社員だった人もオーナーになれるようになり、結果、爆発的に店舗数が増えていきました。経営も、オーナー夫婦を中心とした家族経営が当初はよく見られたものですが、現在は自社の社員を店長として配置するなど、事業の一つとしてコンビニ経営を行う企業や、複数のコンビニを経営するオーナー、数十店を経営する「メガフランチャイジー」と呼ばれる法人加盟店も登場してきています。また、路面店だけでなく、病院・学校・企業の社屋内、高速道路のサービスエリアに出店するなど、コンビニを取り巻く環境はますます多様化しています。
●コンビニ運営の中心は アルバイトスタッフ
コンビニの店舗は、オーナー、店長、マネージャー、そして、複数のアルバイトスタッフ(以下「スタッフ」)で運営されています。スタッフは原則、朝勤(ない店舗もあります)、日勤、夕勤、夜勤の交代制で勤務をすることになります。 スタッフを雇用し、育てるにはお金がかかります。募集にかかる費用、面接・採用にかかる費用、教育のために支払う人件費、労働保険や社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入する場合の保険料負担など、通常勤務以外に発生する費用は、出来る限りかけたくない、というのが経営者の本音です。特に社会保険に関しては、法人経営、あるいは個人事業で加入に必要な条件を満たした場合であっても、未加入のまま経営を続ける店舗が存在しています。この辺りは、本部の具体的なアドバイスはほとんど行われません。中には十分な知識がなく、強制適用事業所になったこと自体に気づいていないオーナーがいる可能性もあります。 勤務時間については、スタッフ総数が少ない店舗の場合、日勤帯から夕勤帯まで、あるいは夕勤帯から夜勤帯など10時間を超える長時間シフトが組まれ、それが恒常化している店舗もあります。こうした店舗の場合は、早期のスタッフ確保と戦力化が不可欠です。そのような状況下であるため、就業規則の制定がほとんど整備されていません。 社会保険の未加入問題は深刻です。売上を上げても本部に払うロイヤリティーが高額なため、毎月の保険料を回避するべく一度法人化しても再び個人事業に戻す「個人成り」を選択するオーナーもいます。こうした場合には税理士と連携をはかり対応をしたり、勤務シフトの調整で社会保険が対象にならない程度の勤務時間にすることを提案したりします。しかし、人手不足が深刻化している店舗も多いことから、単に勤務時間を減らして社会保険を回避するという考え方だけでなく、受給可能性のある助成金の提案を行うことや、求人・採用やスタッフの生産性向上のための育成をサポートする必要もあります。人事考課を導入してスタッフのスキルやマインドの向上をはかることや、定期的な勉強会を開催しスタッフ育成や店舗マネジメントに必要な要素を身につけることなど、提案していく余地は多々あります。
コンビニ業界でも社労士は必要!
「何かあれば、まず本部に連絡」という姿勢の強いオーナー・店長のもとに、外部の人間である社労士が入って行くことは、決して簡単なことではないと実感しています。しかし、労務に関する専門的な知識を有していることから、オーナーの質問や要望にも本部よりスピーディーに回答できるというメリットがありますので、直接営業をしたり、コンビニの顧問先がある税理士との繋がりを作ったりして、社労士の必要性をもっともっと私たちから仕掛けていったほうが良いと考えています。 コンビニは、フランチャイズビジネスの仕組みとしてはかなり確立している業界で、業務や事業所経営が未経験でも安心して加盟、開業しやすいのが特徴です。しかしその分、運営面では、加盟前には見えなかったさまざまな課題が発生し、オーナーや本部の力では対応しきれなくなっている店舗も現実問題としてあるのです。そういった問題の発生を未然に防ぎ、また問題が発生しても、大きなダメージを受ける前に解決していくためには、社労士の存在が欠かせないのです。
※本内容は、2016年12月発刊時点の情報となります。