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ダイバーシティの現場から…(第1回『外国人労働者編』1)
<本間 邦弘 氏>
雇用のダイバーシティを考えるにあたって、外国人労働者は、障害者やがん患者、妊産婦などと並び、重要な位置を占めているといえます。今回は、社労士として知っておきたい知識とお客様へのアドバイスに関して、基本的な事項を中心に解説したいと思います。
1.外国人労働者の基礎知識
(1)外国人労働者の重要性など
我が国では、少子高齢化などにより人口減少が続いていることから労働力人口も減少しており、その対策として外国人労働者の力が重要になっています。現状としては、工場やコンビニなど、いわゆる単純労働での労働力としての貢献が多く見受けられます。 他方、経済のグローバル化は大きく進んでおり、それらへ的確に対応していくためには、単純労働としての労働力だけでなく、「医療」や「研究」、「教育」などといった「専門的・技術的分野」で活動する知識や能力を有する外国人労働者(「高度外国人材」)の力も重要となっています。 また、平成26年4月に「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置を検討する閣僚会議」において、東日本大震災の復興事業の加速化や、平成32年の東京オリンピック・パラリンピック関連の建設需要に対応するための時限的措置として、建設分野において外国人の受入れを実施することが決定され、今後推進されていくことになっています。
(2)在留資格について
入国管理法(略称)では、外国人が日本に入国し滞在できる資格を「在留資格」と定義しており、これが全ての基本といえます。「ビザ(査証)」とも呼ばれており、観光でも原則としてビザの取得が入国の必要条件となりますが、国家間の協定などにより例外として「ビザ無し渡航」が実現している国も多くあります。 在留資格は現在のところ27種類ありますが、原則として就労に制限がないものは、身分・地位に基づく資格である「永住者」など4種類のみとなっています。一般的に働ける資格「( 就労ビザ」)としては16種類あり、原則として働けない資格は「留学」など6種類となっています。また「外交」やその家族等である「公用」としての在留資格や、「家族滞在」として就労ビザのうち「技能実習」を除く、15種類の就労ビザで滞在する外国人が扶養する配偶者や子も、在留資格を得ることが可能となっています。
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【在留資格と就労の関係】
●原則、制限無く働ける(4種類)
これには、永住の許可を受けた「永住者」(原則)と、その配偶者などである「永住者の配偶者等」、日本人の配偶者や実子等の「日本人の配偶者等」、日系3世や中国残留邦人等の「定住者」があります。
●就労で多い在留資格(16種類)
就労ビザには、「教授」、「芸術」、「宗教」、「報道」、「高度専門職1号」、「高度専門職2号」、「経営・管理」、「法律・会計業務」、「医療」、「研究」、「教育」、「技術・人文知識・国際業務」、「企業内転勤」、「興行」、「技能」、「特定活動」があります。
●働けないとされる在留資格(6種類)
これには、観光客や会議参加者等の「短期滞在」(原則3か月以内)、大学などへの「留学」、企業などへの「研修」や「技能実習」、ワーキング・ホリデーなどの「特定活動」、そして前述の「家族滞在」があります。
●資格外活動許可について(留学、文化活動、家族滞在)
上記の6種類は、本来は働くことができない在留資格ですが、「資格外活動許可」を得ることで、一定のアルバイトをすることが可能になる場合があります。例えば「留学」は、本来は勉強等を目的とした在留資格であるため、労働により賃金を得ることが禁止されています。しかし資格外活動許可を得ることで、労働時間や業務(後述を参照)に関する制限の範囲で、アルバイトなどで賃金を得ることが許されています。その他には、「文化活動」、「家族滞在」についても資格外活動許可を得ることで、原則としてアルバイトが可能になります。
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2.社労士としてのアドバイスなど
(1)外国人労働者に適用される法律とその対応 国際私法においては、原則としてその問題に最も密接に関係する法律に準拠すべきであるとされており、これを「準拠法」といいます。そのため、日本における労務問題などにおいては、原則として日本法が適用されることになります。 これらは、労働保険・社会保険諸法令など私たち社労士が専門とする法律の解釈と実務そのものであり、以下の要素を頭に入れながらも、正確な知識と的確なアドバイスが求められることになります。
①指針の確認 「外国人労働者の雇用改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(平成19年厚労省告示第276号)では、外国人労働者の募集から雇い入れ前後の留意点がまとめられており、確認しておくことが重要です。
②個人情報保護法の改正の影響も
本年5月30日に改正個人情報保護法が実施され、「要配慮情報」に関する事項が新たに規定されました。これは、ダイバーシティ雇用の多くの方が該当し、外国人労働者も例外ではありません。個人情報の取得には原則として本人の同意が必要となるなどの対応が求められています。
③相談窓口の活用 「ハローワーク」や「外国人雇用サービスセンター」、「外国人雇用管理アドバイザー」など相談・支援の窓口の活用を勧めるなどのアドバイスも有効です。
(2)不法就労および不法就労助長罪を防ぐために
不法就労は法律で禁止されており、不法就労した外国人だけでなく、不法就労させた事業主も処罰の対象となるため、正しく就労していることの確認が重要になります。
①不法就労になるケース
a.働けない在留資格のまま就労する
観光で「短期滞在」の在留資格のまま就労した場合や、在留期間が過ぎて不法滞在の状態で就労することなどが該当します。
b.資格外活動許可の場合
資格外活動許可を得て就労する場合では、「留学」は労働時間の制限として原則1日8時間、週28時間以内、業務では風俗営業などは禁止という制限があり、これを超えた時間や禁止の業務で就労した場合が不法就労となります。
c.就労ビザの場合
就労ビザは、「経営・管理」や「法律・会計業務」など許可された業務において就労が許されています。しかし、それらの在留資格に含まれない単純労働を行うなど、許可された範囲を超えて働くことも不法就労に該当します。
②「不法就労助長罪」になるケース
前述のa~cに該当する場合や、不法就労を目的とする方に住居を提供するなどした場合に、その雇用主や提供者等が、「不法就労助長罪」に問われる可能性が生じます。 これは、不法就労と知らずに雇い入れた場合でも対象となり、偽造された書類などで騙された場合も厳密には法違反となります。ただし、実際には同罪は、故意や重大な過失など、悪質であったり、確認を怠った場合において適用される可能性が高く、罰則の適用はかなり低いと考えられます。
(3)雇い入れ前と決定時の確認など
前述の不法就労を防ぐため、以下の確認等を行うことが望まれます。
①在留資格の確認と提出
a.在留カード
在留カードは、原則として3か月を超える在留期間を有する外国人に交付されるもので、在留資格や在留期間、就労の可否、資格外活動許可の有無などが記載されています。採用面接の段階では、その内容を確認することが重要です。
b.就労資格証明書
就労資格証明書とは、就労活動が可能か否かを外国人からの申請に基づき、法務大臣が証明する文書であり、雇い入れを決定する際には、就労資格証明書の提出を求めることが確実な方法です。
②その他
a.提出書類について
原本ではなく、写しの提出を受ける場合には、必ず原本の提示を求め、照合する必要があります。
b.寮への居住や身元保証人
会社が保有、または借り上げているマンションなどに居住させる場合には、入居時・居住中・退出時に関する誓約書の提出や身元保証書の提出を受けることが重要です。
c.労働条件通知書の交付など
労働条件通知書の交付義務を守るために、現在厚労省では8か国語のモデルを出しています。これを活用して実態に沿うように修正して渡したり、承認のサインを受けた書類を控えることも重要です。また、雇い入れ時の健康診断や、社会保険の加入などのアドバイスも考えられるでしょう。
(4)雇い入れ後の注意点
雇い入れ後にも、以下のような留意すべき事項があります。
①雇用対策法上の届出など
雇用対策法では、外国人労働者に関する届出義務を定めており、雇用保険の加入の際の届出、また加入対象外の方は雇い入れ、離職の場合ともに翌月末日までの届出が義務づけられています。違反には30万円以下の罰金が定められています。
②不法就労防止の確認
雇い入れ後も、在留資格を逸脱して就労していないか、資格外活動の場合には時間等の制限を超えて労働していないかなどを定期的に確認することも重要です。 外国人労働者の雇用は、今後ますます増えていくことが予見されます。社労士としては基礎的な知識だけでなく実務的な内容までを理解することが、顧客を守るために重要になるでしょう。
※本内容は、2017年6月発刊時点の情報となります。