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NETWORK INFORMATION CHUKIDAN
ダイバーシティの現場から…(第6回『がん患者編』2)
<染谷 由美 氏>
前号では、治療と仕事の両立ができる職場づくりについてご説明しました。今回は、実際の両立支援の進め方について、解説いたします。
4.両立支援の進め方
(1)従業員からの報告・相談があったときは
従業員から、報告・相談をされた際は、まずお見舞いの言葉をかけていただくことを忘れないでください。その後に、「今、会社を辞める決断をする必要はないこと」を伝え、「会社の両立支援に対する基本方針や考え方等」を説明していきます。その際、「従業員としっかり向き合う」ということが最も重要であり、この時の会社の対応によっては、従業員が会社に対して不信感を抱きかねませんので、慎重に対応していくことが求められます。
(2)従業員から必要な情報の収集 どのような支援をしていくのかを検討するために、以下のような情報について従業員から収集していかなければなりません。
<両立支援の検討に必要な情報>
1.症状、治療の状況
・ 現在の健康状態や症状
・ 通勤または勤務の可否と影響を及ぼす症状、今後想定される副作用の内容
・ 治療の内容(抗がん剤治療の有無等)や当面の治療スケジュール
・ 入院や通院の要否とその期間、通院の場合は受診頻度
2.退院後・通院治療中の就業継続の可否に関する意見
3.望ましい就業上の措置(避けるべき作業、時間外労働や出張の可否等)
4.その他配慮が必要な事項に関する意見
5.従業員の仕事に対する想いや希望
(3)産業医等からの意見の聴取と意見書に対する必要に応じた主治医への確認
企業は、主治医等の意見書と従業員の仕事に対する希望や想いに基づいて、具体的な支援方法を検討していくことになりますが、産業医等からも就業継続の可否や就業の措置および治療に対する配慮に関した意見やアドバイスを聴取することが重要です。 もし、主治医等からの意見書について確認すべきことがあるときは、必ず従業員の同意を得てから、主治医等に確認をしてください。
(4)休業措置、就業上の措置および治療に対する配慮の検討と実施
主治医等や産業医等の意見を勘案し、就業を継続させるか否か、具体的な就業上の措置や治療に対する配慮の内容、実施時期等について検討を行い、その検討結果を伝えていくことになります。 その際に注意すべきことは、企業が十分に検討を重ねた結果であっても、従業員が納得をしていなければトラブルになるケースがあるということです。そのため、トラブルを回避する意味でも、企業から対応できる措置や配慮の内容を書面等で一方的に伝えていくのではなく、労使で十分に話し合う機会を持ち、従業員の納得感が得られるように努力する必要があります。 また、職場での理解をできる限り得るためにも、病名等について、職場の誰に、どこまで話すのかといったことについても話し合い、決めておくことをお勧めします。 もし、休職期間に入る場合は、安心して治療に専念するこ とができるように、あらかじめ以下のような情報提供をして おきます。
<休職に対しての情報提供>
1.休職可能期間や休職中の給与等の取扱い
2.休職中に利用できる健康保険や会社の制度
3.休職中の会社との連絡の取り方(頻度や方法、連絡窓口)
4.相談窓口
5.復職の手順等
--- 「病気療養中のため、連絡を取りにくい」等といった休職中の従業員とどこまで関わるべきなのかと悩まれる企業も多くあります。このような場合、従業員の負担にならない範囲で、定期的に連絡を取るように心掛けるようにしてください。こまめに連絡を取り合うことで、現在の状況や治療の経過、今後の見込みについて把握することができ、復職可否を判断する際の参考となります。これは、復職支援の一環であり、労使ともに、スムーズな職場復帰のためには、重要なポイントとなります。 なお、手術による入院や治療による副作用等によって、一時的に従業員と連絡を取りにくくなることも考えられるため、ご家族の連絡先についても、改めて確認をしておくこと をお勧めいたします。 また、休職中の職場をフォローしている上司や同僚に対しても、定期的に面談を行い、サポートすることを忘れずに行っていくことも必要です。
(5)定期的に面談を実施して、措置や配慮の再検討をする
特にがんに罹患した場合には、措置や配慮を行っている間であっても、状況は変化し続けます。そのため、定期的な面談を実施し、現在行っている内容が適正であるかどうかについて状況を把握し、適正でないと判断された場合には、内容について再検討していく必要があります。 また、がんに罹患した従業員だけでなく、フォローしている上司や同僚に対しても、「長時間労働になっていないか」「精神的負荷等がかかりすぎていないか」「対応に悩んでいたり困っていることがないか」等を把握するために、定期的に面談を行い、サポートしていくことが求められます。
5.社労士として企業へのアドバイス
来年度の診療報酬の改定により、就労中のがん患者について、患者の同意を得た上で、産業医への情報提供、状態変化等に応じた就労上の留意点に係る指導、産業医からの助言を踏まえた治療計画の見直し・再検討を行った場合に関し、算定されることになります。 そのため、社労士が企業から両立支援の進め方に関してのアドバイスを求められる機会が増えることが予想されます。企業から相談を受けた場合、社労士として企業の置かれている状況を踏まえて、無理のない支援を提案していくことになります。 しかし、主治医等からの意見書には、主に配慮すべき事項、いわゆる禁止事項等を記載するような様式であるため、企業側が混乱してしまうケースが多くあります。そのような場合には、従業員との話し合いの中で、禁止事項を踏まえた上で「どんな業務や作業ならば対応可能なのか」といった、できることを引き出していくアドバイスをしていくことが重要です。 また、両立支援に関しては、厳しい経営環境である中小企業では対応できないのでは、と懸念されがちですが、逆に中小企業だからこそ、労使間の距離が近く、柔軟な対応ができることも考えられます。加えて、両立支援に取り組む際には、ともすると新しい働き方を整備することに目がいきがちですが、最も必要不可欠なのは、職場の理解とコミュニケーションです。日頃から話しやすい、相談しやすい、仲間のちょっとした変化にも気づくことができる関係性が築かれているかどうかが、肝心なのではないでしょうか。
※本内容は、2018年4月発刊時点の情報となります。