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法令改正最前線(第38回『「働き方改革関連法案」附帯決議』)
<滝 則茂 氏>
「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律案」は、6月29日の参議院本会議で可決され、成立しました。その前日、参議院厚生労働委員会は、当該法律案の可決に際し、47項目に及ぶ附帯決議を行っています。今回は、この附帯決議をテーマとして取り上げます。
1.附帯決議とは
そもそも附帯決議とは、国会の委員会が、法律案の可決に際し、政府が法律を執行するにあたっての留意事項を示すために行われる決議を意味します。「とりあえず、法律案を可決するが、その運用が適切に行われるか不安があるため、立法府が行政府に注文を付ける。」こんなイメージです。このように附帯決議は、直接的には政府への要望ですが、労働法関連の決議にあっては、事業主への監督指導等に言及するものも少なくありません。 本稿では、今回の附帯決議の項目の中から、企業の労務管理との関わりが強いと思われるものをピックアップし、紹介することとします。
2.労基法改正関連の項目
- ●労働時間管理について (項目12) 本法による長時間労働削減策の実行に併せ、事業主が個々の労働者の労働時間の状況の把握を徹底し、かつその適正な記録と保存、労働者の求めに応じた労働時間情報の開示を推奨することなど、実効性ある改善策を講じていくこと。 * この趣旨に沿った監督署の指導が促進されることになると思われます。
- ●三六協定の締結手続について (項目15・要旨) 過半数労組が存在しない事業場における過半数代表者の選出をめぐる現状の課題を踏まえ、「使用者の意向による選出」は手続違反であること、使用者は過半数代表者がその業務を円滑に推進できるよう必要な配慮を行うべきことを省令に具体的に規定し、監督指導を徹底すること。 * このテーマに関しては、過半数代表者選出手続の瑕疵を理由に三六協定の拘束力を否定した判例がありますので注意が必要です。
- ●中小企業への配慮 (項目17) 特に、中小企業・小規模事業者においては、法令に関する知識や労務管理体制が必ずしも十分でない事業者が数多く存在すると考えられることを踏まえ、行政機関の対応に当たっては、その労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態その他の事情を踏まえて必要な配慮を行うものとすること。 * たしかにその通りだと思いますが、社労士としては、事業主が「配慮」に甘えて制度改革が置き去りにならないよう、フォローしていく必要があります。
3.同一労働同一賃金関連の項目
- ● 通常の労働者の待遇引下げへの懸念 (項目32・要旨) 同一労働同一賃金は、非正規雇用労働者の待遇改善によって実現すべきであり、労使の合意なき通常の労働者の待遇引下げは、基本的に法改正の趣旨に反するとともに、労働条件の不利益変更法理にも抵触する可能性がある旨を指針等で明らかにし、その内容を労使に対し丁寧に周知・説明を行うことにつき、労働政策審議会において検討を行うこと。 * 現実問題として、財源に制約のある事業主は、非正規雇用労働者の待遇改善と引換えに正社員の待遇引下げ(特に手当の廃止・縮小)を検討せざるを得ないのではないでしょうか。その際には、その場しのぎの対処療法ではなく、賃金の在り方に遡った抜本的な制度改革が求められます。
- ●非正規雇用労働者への待遇差の説明 (項目35) 使用者が、非正規雇用労働者に通常の労働者との待遇差を説明するに当たっては、非正規雇用労働者が理解できるような説明となるよう、資料の活用を基本にその説明方法の在り方について、労働政策審議会において検討を行うこと。 * 同一労働同一賃金に関するトラブルを回避するためには、事業主による非正規雇用労働者への丁寧な説明が大きなポイントになります。
※本内容は、2018年8月発刊時点の情報となります。