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業種特化社労士の視点から(第14回『林業編』)

<黒木 美生 氏>

林業業界にとって社会保険労務士は、本来重要なビジネス支援パートナーなのです。しかし、現状は私たち社会保険労務士の努力不足も伴い「ミスマッチ」が生じています。

1.なぜ私たち社会保険労務士が林業業界に注目したいのか

現在、日本の林業界は生産性の向上や、それに伴う人材確保、人材育成、業界情報啓発、技術向上、機械化促進、労働環境整備、事業体組織改革、資金計画支援等多方面に渡る視点での業界改革に取り組んでいます。 (1)各地の行政等の指導で、雇用創出、定着、林業業界イメージの改善向上に努めており「林業雇用管理改善」も重要なポイントとなり、益々私たち社会保険労務士の出番が増えています。 (2)宮崎県でみられるように林業大学校の新たな開設など将来に向けた「即戦力育成」「後継者育成」「専門的技術者の養成」により一層力を入れています。益々組織として「労務管理の重要性」がクローズアップされ、今後、私たち社会保険労務士が関与する場面が多くなります。 (3)今後の人手不足感の増大に向けた対策としての「雇用確保、維持」の観点での「採用」「人事制度」「労働時間管理」をはじめとする雇用環境改善に私たち社会保険労務士が関与するべきことが多く、積極的にアピールする必要があり、そのことがまさに社会保険労務士の「社会的役割」となります。

2.業種・業界の最新情報、現状と未来像

まず、最初に「林業の業界イメージ」としての捉え方を考えて見ましょう。やはり一番多い業界イメージは人が集まりにくい「危険を伴う業界」「林業=労災事故多発」ということになるでしょう。その他、以下に記載するようなイメージを感じると思います。 ①一人親方、個人事業者が多い。または家族経営が多い。 ②林業従事者の高齢化が年々進んでいる。 ③経営収入および賃金額は仕事の内容の割には低額である。 ④若者の林業就労者が少ない。若者に敬遠されている。(3K産業) ⑤天候に左右されて収入が不安定である。 ⑥労務管理が不安定で事業主に元々法令遵守の理念が低い業界である。 などでしょうか。 それに加えて、一番の問題点は林業を敬遠する社会保険労務士が多いということです。「私たち社会保険労務士の関与率が低い業界(特殊な業界)だ」「社会保険労務士としてもあまり魅力を感じない業界だ」「地域差があり、社会保険労務士の出番の少ない地域が多い」と感じる方もいるかもしれません。 逆に言えば私たち社会保険労務士の関与率が低いのであれば開拓の余地がまだまだ十分あるという事です。業界的、社会的ニーズがあるのに、私たち社会保険労務士が業界に関心を持たないという「ミスマッチ」は少し残念な状況なのです。

3.業界から社会保険労務士のニーズが求められる理由

それではなぜ、私たち社会保険労務士に対する業界ニーズ(潜在的ニーズ)が発生するのかと申し上げますと、林業業界のイメージが変化してきて職場環境、多様性のある働き方、性別、年齢の枠を超えた就労状況等が大きく変化してきましたためです。具体的には以下のようになります。

①若年層の就労増加傾向、女性の業界進出、中高年者の中途就労意欲の向上。

②高性能林業機械化による作業効率化、安全対策の強化による業務改善。

③全国森林組合連合会主体で「林業雇用管理改善のしおり」等を配布し、それに基づく研修会等を開催して林業経営者の「経営改善」「労務管理意識改善」を積極的に支援。(天候に左右され労務管理がままならないイメージからの脱却)

このように国や業界団体の総合的支援により色々な変化を見せて、少しずつ経営、雇用状況の改善が図られてきました。その原因、背景には「高齢化と慢性的な就労人員不足」があると思われます。ここにきてひとまず若年層の就労が微増してきたことは大きな成果だと思います。その上でさらに重 要なのは今後の「新規および中途採用」と「人員確保維持」という、「採用と雇用維持バランス」が必要になります。それらを継続しないと「高齢化と慢性的な就労人員不足」の解決にはつながらないのです。もちろんこれは林業だけに関することだけではなく日本の産業社会全体の課題でもあります。 そこで、私の考える林業業界の一番大きな変化は「業界イメージによるあきらめ感」から脱却して「各事業体が自信を持って採用を行う、業界イメージ改善への大いなる挑戦」ということになると思います。 そのためには、「労務管理」「職場環境改善」「人事制度」「両立支援」等の専門士業と言われる私たち社会保険労務士の出番となるのではないでしょうか。特に変化の過渡期である林業業界にはなくてはならない「ビジネス支援パートナー」となるべきなのです。「ここで活躍しないでいつ活躍するの?」というくらいまさしく「先生、出番ですよ!」という時期だと思うのです。 林業業界、林業団体、経営者でも「専門家」を探しているのです。「誰に相談すれば良いのか」「どこが窓口なのか」「委託費用はどのくらい必要なのか」というような関心ごとが私の周りでも聞こえてくる頻度が高まりつつあります。各地の業界団体等も雇用に関するアドバイザーを専任として配置をするほか、私たち社会保険労務士を外部の「専門家」として委託することも多く見られるようになりました。 このように変化をしてきた林業業界の取り組みに応じて、私たち社会保険労務士が必要な存在になってきたのです。そこで一番大切なのは常々林業関係者への「林業を得意とする専門家」としての実績や情報の発信をするということになります。そのためには日ごろの経験や実践で得られる「自信」を前面に出せるように経験を積んでアピールすることが重要でしょう。

4.求められる業界内容と業務の進め方のポイント

まとめとして、今後私たち社会保険労務士がアドバイザー的役割で「安全衛生」についてはもちろん、「労災無事故」を実現するための「労務管理」を基本とした「職場環境改善」へのお手伝いをする必要が出てくると思います。 まず取り組むべき業務としては「労働時間管理に連動した給与制度の確立」ということになるでしょう。厚生労働省の「平成25年若年者雇用実態調査の概況」によれば全事業若年層の転職希望事由のトップはやはり「賃金の条件がよい会社に変わりたい」と言うことになります。2番目には「労働条 件・休日・休暇条件」が予想通り入っています。林業での若年層の人材確保定着の上でも同様の傾向を示すと思われます。ここに私たち社会保険労務士が取り組む業務および助言のヒントがありそうです。 それらを踏まえた上で林業の業界意識としてあまり重要視されていないことも多い「就業規則」の相談、助言、作成の提案も最初にできると思います。その際に事前に行うべき「労務監査」も提案できる可能性があります。全国社会保険労務士会HPで掲載されている「経営労務診断サービス」「労 務診断ドッグ」(期間限定)等を最大限に活用して、まずはその会社ごとの「問題点」「法令遵守」等の確認を行って進めることが大切になります。そして、「就業規則を作成」することを目的にするのではなく、法令遵守はもちろん、その為の解釈、方法、法令の考え方の説明、人を大切にする、人が集まり、定着できる仕組みづくりの提案、それらを踏まえて最終的に就業規則に落とし込むという手順が必要と思われます。それに伴い、給与計算の助言、代行、福利厚生の重要性を指南したうえで各種社会保険の手続きやその必要性の説明等を踏まえた継続的契約(顧問契約)が可能となります。また、「働き方改革」で近年関心が高まりつつある、36協定の助言、人材確保のための「効果的な求人票作成」及び、「雇用時の雇用通知書作成」の助言も続々出番がありそうです。私たち社会保険労務士が若者を基本とした「人材の確保、定着」にいかに関与し、業界イメージの向上にどれほど寄与できるかをアピールすることができるかが、継続的業務の委託を受けるかどうかの分かれ道になることでしょう。

※本内容は、2018年12月発刊時点の情報となります。

黒木美生経営労務管理事務所
社会保険労務士 黒木 美生 氏

1993年社会保険労務士試験合格。1995年3月社会保険労務士登録開業。以後、地域企業に寄り添い、「経営にあんしんを」をスローガンに経営者はもちろん、そこで働く社員も含めた「人を大切にする経営」を目標とした経営者への支援を行っている。宮崎県社会保険労務士会理事を歴任。現職は宮崎県社会保険労務士会副会長。独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構65歳超雇用推進プランナー。若手の育成、社労士の未来像の構築にも力を注いでいる。

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